セント-ジョルジのがん研究と発酵小麦胚芽エキス(Avemar)
【オットー・ワールブルグ博士とアルベルト・セント-ジョルジ博士】
オットー・ワールブルグ(Otto Warburg:1883年~1970年)博士は呼吸酵素(チトクローム)の発見で1931年にノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツの生化学者です。細胞生物学や生化学の領域で重大な基礎的発見を次々に成し遂げ、呼吸酵素以外の研究でも何回もノーベル賞候補になった偉大な科学者です。
そのワールブルグ博士が最も力を注いだのががん細胞のエネルギー代謝の研究です。学生時代からがん研究に関心をもち、がん細胞の異常な増殖を解明するためには、エネルギー生成の反応系を研究しなければならないということから、呼吸酵素を発見しています。
そして、がん細胞ではグルコースから大量の乳酸を作っていること、がん細胞は酸素が無い状態でもエネルギーを産生できること、さらに、がん細胞は酸素が十分に存在する状態でも、酸素を使わない解糖系でエネルギーを産生していることを見つけています。 がん細胞ではミトコンドリアにおける酸化的リン酸化によるエネルギー産生が低下し、酸素が十分に利用できる状況でも、細胞質における解糖系を介したエネルギー産生が増加しています。この現象はワールブルグ効果(Warburg effect)や好気性解糖として知られていますが、このワールブルグ効果が発見されたのは90年以上も前(1926年)のことです。アルベルト・セント-ジョルジ(Albert Szent-Gyorgyi:1893-1986)博士は、ビタミンCの発見で有名ですが、細胞の呼吸反応(後にTCA回路と呼ばれる)の研究を行い、細胞呼吸(生物学的燃焼)におけるビタミンCとフマル酸の触媒作用に関する発見で1937年にノーベル生理医学賞を受賞したハンガリー出身(1947年にアメリカ合衆国に移住)の生理学者です。
ちなみに1937年のノーベル化学賞は、ビタミンCの構造を決定したウォルター・ハースが受賞しています。
セント-ジョルジはその後筋肉の収縮の研究を行い、アクチンとミオシンとによる筋肉収縮のメカニズムを発見しています。さらに、1950年代末からはがんの研究を精力的に行っています。 セント-ジョルジ博士がノーベル賞を受賞した1937年は、酸素呼吸をする生物全般に存在するエネルギー産生のための生化学反応であるTCA回路(クエン酸回路やクレブス回路などとも呼ばれる)がドイツの化学者ハンス・クレブス(Hans Krebs)博士によって発見された年です。クレブス博士はこの功績によって1953年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。クレブス博士は一時期ワールブルグ博士の研究助手として働いており、ワールブルグ博士の伝記を書いています。日本語訳は1982年に岩波書店から出版されています。このように1930年代は、細胞呼吸によるエネルギー産生のメカニズムが明らかになった時代です。 その当時にがん細胞のエネルギー産生の研究を行いワールブルグ効果を発見したワールブルグ博士は、「がん細胞では酸素が十分にある状況でも、酸素を使わない解糖系でエネルギー産生を行っている」ことが発がんの原因であると考えていました、しかし、これはがんの原因ではなく、酸素欠乏状態にある結果として仕方なくそうなるのだという考えが主流で、最近までこのワールブルグ効果はほとんど重視されていませんでした。
1950年代からがん治療の研究に没頭したセント-ジョルジ博士も、がん細胞の代謝の異常に注目して増殖を抑える方法を見つけることを目標にしていました。しかし、当時のがん治療の考え方は、「がんはいかなるコストを払っても抹殺すべき」という考えが主流でした。 最初の抗がん剤はナイトロジェンマスタードで、第一次世界大戦に化学兵器として使われたマスタードガスのイオウ原子を窒素に置き換えた化合物です。DNAをアルキル化することによって核酸の合成を阻害して細胞の増殖を抑えます。白血病や悪性リンパ腫の治療薬として効果を認められましたが、その作用機序から明らかなように正常細胞に対する毒性による副作用が強いのが問題です。その後毒性を弱めたナイトロジェンマスタード誘導体が開発され、シクロフォスファミドやメルファランといった抗がん剤が現在も使用されています。これらはアルキル化剤という抗がん剤に分類されています。
ナイトロジェンマスタードが最初にがん患者に使用されたのは1946年です。 つまり、セント-ジョルジががんの研究を精力的に行っていたころ(1960年代から80年代)は、強い毒性をもった化合物を使ってがん細胞を一掃するような治療法が主流になっていました。
セント-ジョルジはそのような抗がん剤治療の考え方には反対で、より安全な治療法の開発を目指しました。がん細胞を直接死滅させるのではなく、がん細胞の代謝の異常に注目して増殖を抑える方法を見つけることを目標にしました。しかし、当時は「がん細胞を死滅させる細胞毒を見つけて抗がん剤にする」ような研究が重要と考えられていたため、セント-ジョルジが提唱する「がん細胞の代謝の異常を正常化させて増殖を抑制する」ような方法論に基づいた研究は次第に忘れ去られていきました。
【セント-ジョルジのがん研究と発酵小麦胚芽エキス(Avemar)】
ワールブルグもセント-ジョルジも偉大な科学者で、二人とも、がん治療においてエネルギー代謝の異常をターゲットにしたがん治療の有効性を認識していた点で注目されます。しかし、その考え方はつい最近まで重要視されていませんでした。
がん細胞におけるエネルギー代謝の異常(ワールブルグ効果)は、最近まで長い間、がん細胞が嫌気的環境に順応するための変化にすぎないと考えられてきました。しかし、最近の研究で、このワールブルグ効果はがん発生の原因として再び脚光をあびるようになってきました。そして、ワールブルグ効果の正常化をターゲットにした治療法として、TCA回路を活性化するジクロロ酢酸ナトリウムやαリポ酸、解糖系を阻害する2-デオキシ-D-グルコースなどが検討されています。
図:がん細胞ではグルコースの取り込みと解糖系が亢進し(①)、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化は抑制されている(②)。これをワールブルグ効果と言う。グルコースの取り込みが増えると、アミノ酸や核酸や脂肪酸の合成に必要な中間代謝産物を増やすことによって、細胞の増殖に必要な細胞成分を増やすことができる(③)。乳酸と水素イオン(④)はがん組織を酸性化し(⑤)、周囲正常組織にダメージを与え、がん細胞の増殖や浸潤や転移を促進する(⑥)。ミトコンドリアの酸化的リン酸化が抑制されるとアポトーシスが起こりにくくなる(⑦)。したがって、ワールブルグ効果はがん細胞の増殖に有利に働き、がん細胞のワールブルグ効果を阻害するとがん細胞の増殖や転移を抑制し、アポトーシスを誘導することができる。 がん細胞の増殖や代謝に関するオットー・ワールブルグ(⑧)とアルベルト・セントジョルジ(⑨)の二人の偉大な科学者の理論は、体にやさしいがん治療を考える上で非常に重要となっている。
さて、セント-ジョルジ博士も、がん細胞の代謝の異常に注目して増殖を抑える治療法の研究の中で、小麦胚芽に含まれるキノンの一種ががん細胞の増殖を阻止する作用があることを見つけています。 すなわち、2,6-dimethoxy-p-benzoquinone(2,6-DMBQ)などのメトキシ置換ベンゾキノン類(methoxy-substituted benzoquinones)といわれる物質が、がん細胞におけるグルコースの取り込みや嫌気性解糖系を阻害し、さらにDNAやRNAの合成に必要なペントースリン酸経路の酵素やリボヌクレオチド還元酵素(Ribonucleotide reductase)を阻害する作用が報告されています。
2.6-DMBQなどの抗がん作用のあるベンゾキノンを含有するサプリメントとして発酵小麦胚芽エキスのAvemarが有名です。発酵小麦胚芽エキス(Avemar)には、がん細胞に直接作用して増殖を抑えたりアポトーシスを誘導する作用のほか、免疫力増強、ナチュラルキラー細胞によるがん細胞の認識を助ける効果、がん性悪液質の改善、抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減する効果、再発を予防する効果など多彩な抗腫瘍効果が報告され、複数の臨床試験でも有効性と安全性が確認されているサプリメントです。
Avemarは「小麦胚芽に含まれるメトキシ置換ベンゾキノンの抗がん作用」に関するセント-ジョルジ博士の研究をもとに、セント-ジョルジの祖国のハンガリーで開発されたサプリメントです。 セント-ジョルジのベンゾキノンの抗がん作用に関する研究や、Avemarの基礎研究や臨床試験の結果などは、権威ある学術論文に発表されており、がん治療に利用されているサプリメントとしては、かなり有効性の高いサプリメントです。
図:小麦胚芽を発酵させた抽出エキスは、それに含まれるメトキシ置換ベンゾキノンやその他の成分の相乗効果によって様々な抗がん作用を発揮し、欧米ではがん患者用の栄養補助食品として注目されている。
【エネルギー産生と物質合成と抗酸化システムをターゲットにしたがん治療とは】
がん細胞は正常細胞に比べて細胞増殖が亢進しています。 したがって、がん治療のターゲットとしてDNAの合成や複製の過程、細胞分裂のメカニズム(微小管の働きなど)がメインになります。すなわち、細胞傷害を目的とした抗がん剤の多くは、細胞分裂の過程を阻害して、がん細胞の増殖を抑え、細胞死を誘導することを目標にしています。
しかし、正常細胞でも、骨髄細胞や消化管粘膜上皮細胞や免疫組織(リンパ球)や毛根細胞も盛んに細胞分裂を行っているので、細胞増殖を阻害する抗がん剤は、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)や消化管障害(食欲低下、吐き気、嘔吐、便通障害など)や免疫力低下(リンパ球減少)や脱毛などの副作用が出てきます。
ある特定の分子を標的として、その機能を制御することにより治療する分子標的薬も多く開発されています。がんの分子標的薬の多くは、細胞の増殖や生存のシグナル伝達系のタンパク質がターゲットになっています。 しかし、複数の経路が相互にクロストークしながらネットワークを形成しているので、シグナル伝達経路の一部を阻害しても、迂回経路の存在によって、がん細胞の増殖を十分に阻害することに限界があり、したがってその効果は限定的です。
この他のがん治療のターゲットとしては、「エネルギー産生と物質合成」や「抗酸化システム」があります。前者に関しては、解糖系やペントース・リン酸経路やミトコンドリアがターゲットになります。後者に関しては、グルタチオンやチオレドキシンなどがターゲットになります。
解糖系とペントース・リン酸経路とミトコンドリアと抗酸化システム(グルタチオンやチオレドキシン)を同時にターゲットにしたがん治療は、正常細胞へのダメージは少なく、がん細胞に選択的に作用して、増殖抑制と細胞死誘導の効果が期待できます。
【還元型グルタチオンと酸化型グルタチオン】
グルタチオン(Glutathione)というのは、グルタミン酸とシステインとグリシンの3つのアミノ酸が結合したトリペプチドです。 γ-グルタミルシステイン合成酵素によってグルタミン酸とシステインが結合してγ-グルタミルシステインを合成します。引き続いてグルタチオン合成酵素によってγ-グルタミルシステインにグリシンが結合してグルタチオンが合成されます。この合成にはATPが必要です。 つまり、グルタミン酸やシステインやグリシンが不足したり、ATPが十分に産生できなかったり、γ-グルタミルシステイン合成酵素やグルタチオン合成酵素の活性が阻害されれば、グルタチオンの濃度は低下して、酸化ストレスに対する抵抗力が低下することになります。
図:グルタチオンは3つのアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)がATPを使って結合して合成される。
グルタチオンは細胞内に0.5〜10mMという非常に高濃度で存在します。チオール基(SH基)を持ち、この水素が電子を供与することによって活性酸素やフリーラジカルを消去します。 還元型のグルタチオンはGSH(Glutathione-SH)と表記され、GSHが活性酸素などで酸化されると酸化型グルタチオンGSSG(Glutathione-S-S-Glutathione)になります。
つまり、酸化型は、二分子の還元型グルタチオンがジスルフィド結合(2個のイオウ原子が繋がった状態)によってつながった分子です。 細胞内で発生した活性酸素やフリーラジカルに電子を与えて酸化型になったグルタチオンを還元型に戻す酵素がグルタチオンレダクターゼ(グルタチオン還元酵素)で、このときNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)から水素をもらいます。このNADPHはペントース・リン酸経路で産生されます。
図:還元型グルタチオンは活性酸素(スーパーオキサイド、過酸化水素など)などと反応して酸化され、2量体化した酸化型グルタチオン(GSSG)に変化するが、グルタチオン還元酵素がNADPHからの電子をGSSGに転移して、GSH(還元型グルタチオン)に再生される。
がん細胞は還元型グルタチオン(GSH)の産生を促進することで、酸化ストレス抵抗性を高め、増殖や転移や治療抵抗性を高めていることが知られています。 NADPHはペントース・リン酸経路で産生されます。つまり、がん細胞のグルコース取り込みや解糖系やペントース・リン酸経路を阻害するケトン食や2-デオキシ-D-グルコースやジクロロ酢酸はNHDPHの供給を減らすことによって、グルタチオンの合成を低下させ、酸化ストレスに対する抵抗性を減弱させることができます。(ATP産生低下はグルタチオン合成を低下させます)
【ペントースリン酸経路は核酸の原料と還元剤のNADPHを産生する】
ペントースリン酸経路とは、解糖系の中間体のグルコース6リン酸から分岐し、同じく解糖系の中間体 グリセルアルデヒド3リン酸に戻る経路(回路)です。解糖系と同様に細胞質に存在する経路で、補酵素の一つであるNADPHを産生し、核酸の原料となるリボース5リン酸などの5単糖 (ペントース) を産生します(下図)。
図:解糖系は1分子のグルコースが2分子のピルビン酸に分解される過程で2分子のATPが産生される(①)。グルコース6リン酸から派生するペントースリン酸経路では、還元剤のNADPHが2分子産生され、グルタチオン還元や脂肪酸合成など還元力を必要とする生合成反応に使われる(②)。さらに、核酸合成の材料になるリボース5リン酸が産生される(③)。がん細胞ではグルコースの取込みが増え、解糖系とペントースリン酸経路が亢進して、細胞分裂のためのエネルギー(ATP)と物質合成(核酸、脂肪酸、NADPHなど)が亢進している。
NADPHは還元剤です。脂肪酸やステロイドの合成、抗酸化物質のグルタチオンやチオレドキシンの還元剤として使用されます。 解糖系はATPを産生します。ペントースリン酸経路はATP産生には関与せず、核酸の原料や還元剤(NADPH)の産生を行っています。 細胞が増殖するにはエネルギー(ATP)だけでなく、核酸や脂肪酸などの物質合成や、酸化ストレスを軽減する還元剤の需要も増えます。したがって、がん細胞では、解糖系とペントースリン酸経路が亢進しています。
【発酵小麦胚芽エキスは解糖系とペントースリン酸経路を阻害する】
正常細胞に比べて、がん細胞はグルコースの取込みと解糖系と乳酸の産生が亢進しています。 増殖活性の高いがん細胞では細胞を増やすために核酸合成が亢進していますが、この核酸合成の材料はグルコースであり、ペントース・リン酸回路での代謝によって核酸が合成されます。
図:がん細胞における糖質代謝の特徴を示している。赤の矢印はがん細胞で活性化あるいは増えていることを示している。がん細胞はグルコースの取り込みと解糖系が亢進し(①)、乳酸産生が亢進している(②)。さらにペントース・リン酸経路が亢進し、核酸やアミノ酸や脂肪酸やNADPHの合成が亢進している(③)。ミトコンドリアでの酸化的リン酸化は抑制されている(④)。これをワールブルグ効果という。グルコースの取り込みと解糖系と乳酸産生を阻害し、ペントースリン酸経路を阻害して、物質合成と抗酸化力を低下させ、ミトコンドリアの酸化的リン酸化の抑制を阻害(=酸化的リン酸化を亢進)すると、がん細胞のワールブルグ効果を是正してエネルギー代謝と物質合成を正常化できる。
以下のような報告があります。
Augmented pentose phosphate pathway plays critical roles in colorectal carcinomas.(ペントースリン酸経路の亢進は、結腸直腸がんにおいて重要な役割を果たす。)Oncology. 2015;88(5):309-19.
【要旨】
解糖系とペントースリン酸経路は、がん細胞で顕著に活性化されている。このようながん細胞における糖代謝の変化の重要性を知られているが、がん治療との関連については、十分に検討されていない。 ここでは、解糖系とペントースリン酸経路の酵素の合成が、結腸直腸がんの組織標本でほぼ普遍的に増強されていることを報告する。
哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害剤のINK128(300 nM)および植物化学物質Avemar(1 mg / ml)は、結腸直腸がん細胞株におけるペントースリン酸経路の酵素の合成を阻害した。 INK128(150-600 nM)およびレスベラトロール(75-300μM)は、細胞株の好気性解糖を阻害した。 INK128(300 nM)とAvemar(1 mg / ml)は、細胞株のNADPH / NADP(+)比とGSH / GSSG比を減少させた。 最後に、INK128(0.8 mg / kg)またはAvemar(1 g / kg)の経口投与は、患者由来の移植可能な結腸直腸がん細胞の腫瘍増殖を抑制し、腫瘍形成を遅らせた。
まとめると、mTOR-ペントースリン酸経路軸の薬理学的阻害は、結腸直腸がんに対する有望な治療戦略である。発酵小麦胚芽エキスのAvemarがペントースリン酸経路を阻害して抗腫瘍効果を発揮するという報告です。
【発酵小麦胚芽エキスAvemarはmTORを阻害する】
さらにAvemarがmTORを阻害することも報告されています。
2,6-DMBQ is a novel mTOR inhibitor that reduces gastric cancer growth in vitro and in vivo(2,6-DMBQはin vitroおよびin vivoでの胃がん細胞の増殖を抑制する新規のmTOR阻害剤である)J Exp Clin Cancer Res. 2020 Jun 9;39(1):107. doi: 10.1186/s13046-020-01608-9.
【要旨】
背景:発酵小麦胚芽抽出物は、さまざまながん細胞で抗酸化、細胞増殖抑制、アポトーシス誘導など、さまざまな薬理活性を発揮することが報告されている。 2,6-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン(2,6-DMBQ)はベンゾキノン化合物であり、発酵小麦胚芽抽出物に含まれている。胃がんに対する2,6-DMBQの抗がん効果と分子メカニズムはまだ検討されていない。方法:2,6-DMBQの抗がん効果は、MTTアッセイ、軟寒天上での増殖、細胞周期、およびアネキシンV分析によって決定された。潜在的な候補タンパク質は、in vitroキナーゼアッセイおよびウエスタンブロッティングを用いてスクリーニングされた。 mTORノックダウン細胞株は、shmTORによるレンチウイルス感染によって確立された。腫瘍増殖に対する2,6-DMBQの効果は、胃癌患者由来の異種移植モデルを使用して評価された。
結果:2,6-DMBQは、胃がん細胞の細胞増殖を有意に減少させ、G1期の細胞周期停止とアポトーシスを誘導した。 2,6-DMBQはin vitroでmTORの活性を低下した。 2,6-DMBQによる細胞増殖の阻害は、mTORタンパク質の発現に依存していた。
注目すべきことに、2,6-DMBQは、in vivoマウスモデルで患者由来の異種移植胃腫瘍の増殖を大幅に減少させた。結論:2,6-DMBQは、胃がんの治療に役立つ可能性のあるmTOR阻害剤である。それは胃がん患者にとって治療上の有用性を持っている。
2,6-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン(2,6-DMBQ)は、発酵小麦胚芽抽出物に含まれている抗がん作用のある成分です。2,6-DMBQがmTORの活性を阻害するという報告です。
【発酵小麦胚芽エキスAvemarはワールブルグ効果を是正する】
がん細胞はグルコースの取り込みと解糖系と乳酸産生が亢進し、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が低下しています。これをワールブルグ効果や好気性解糖といいます。 がん細胞のミトコンドリアの酸化的リン酸化を亢進するとがん細胞の増殖が抑制され、アポトーシスが誘導されることが知られています。 発酵小麦胚芽エキスのAvemarにはミトコンドリアの酸化的リン酸化を活性化することが報告されています。以下のような報告があります。
Mito-oncology agent: fermented extract suppresses the Warburg effect, restores oxidative mitochondrial activity, and inhibits in vivo tumor growth(ミトコンドリア をターゲットにしたがん治療薬:発酵抽出物はワールブルク効果を抑制し、ミトコンドリアの酸化的リン酸化活性を回復し、in vivoでの腫瘍増殖を阻害する) Scientific Reports volume 10, Article number: 14174 (2020)
【要旨の抜粋】
がん細胞ではミトコンドリアの機能異常と代謝経路の顕著な変化が起こっている。 正常なミトコンドリアは、シトクロムcを細胞質に放出することにより、内因性アポトーシスを引き起こす。一方、がん細胞はこの機能が抑制され、死ににくくなっている。
発酵小麦胚芽抽出物(fermented wheat germ extract :FWGE)の高度に精製された活性成分であるA250は、ミトコンドリアへの物質流入を亢進し、TCA回路や酸化的リン酸化に関与する成分の発現を亢進した。 呼吸鎖活性の亢進は、アポトーシスカスケードを引き起こすシトクロムcを細胞質に放出するミトコンドリアの能力を高める。
マウス黒色腫の実験では腫瘍増殖が68%阻害された。単離された腫瘍組織サンプルのプロテオミクス分析によりミトコンドリアのタンパク質の同様な変化(TCA回路や酸化的リン酸化に関与する成分の発現亢進)が観察された。
血球数の検査データから、この腫瘍抑制効果が一般的な毒性を伴わないことを示した。
この研究は、高濃度に濃縮された発酵小麦胚芽抽出物が正常なミトコンドリア機能を高める効果的な薬剤であることを示している。肝毒性および一般的な毒性作用がないため、A250は癌治療におけるミトコンドリア機能を標的とする優れた候補と考えられる。発酵小麦胚芽エキス(Avemar)はグルコースの取り込みと解糖系と乳酸産生を阻害し、ペントースリン酸経路を阻害して、物質合成と抗酸化力を低下させ、ミトコンドリアの酸化的リン酸化を亢進します。その結果、がん細胞のワールブルグ効果を是正して、エネルギー代謝と物質合成を正常化するということです(下図)。
図:がん細胞はグルコースの取り込みと解糖系が亢進し(①)、乳酸産生が亢進している(②)。さらにペントース・リン酸経路が亢進し、核酸やアミノ酸や脂肪酸やNADPHの合成が亢進している(③)。ミトコンドリアでの酸化的リン酸化は抑制されている(④)。発酵小麦胚芽エキス(Avemar)はグルコースの取り込みと解糖系と乳酸産生を阻害し(⑤)、ペントースリン酸経路を阻害して、物質合成と抗酸化力を低下させ(⑥)、ミトコンドリアの酸化的リン酸化の抑制を阻害(=酸化的リン酸化を亢進)する(⑦)。その結果、がん細胞のワールブルグ効果を是正して、エネルギー代謝と物質合成を正常化する。