ケトン体が高いほど抗がん作用が強くなる
ケトン体が高いほど抗がん作用が強くなる
進行がんに対する代謝治療としてのインスリン阻害を目指す治療:10例のがん患者を対象にした安全性を妥当性を評価する予備試験(Nutrition 28(10): 1028-35, 2012)
米国ニューヨーク州のアルバート・アインシュタイン医科大学の放射線科のグループからの研究
【要旨】
目的:増殖の早いがんの多くは、フッ素の同位体で標識したブドウ糖(18F-fluorodeoxy
glucose:フルオロデオキシブドウ糖)を使ったPET(Positron
Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)検査で陽性を示す。これはがん細胞ではグルコースの取込みが亢進し嫌気性解糖系主体のエネルギー産生を行っていることによる。インスリン分泌を阻害する方法はがんの増殖を抑制することができる。
方法:進行した根治治療不可能ながん患者でPET検査で腫瘍を検出し、Eastern Cooperative Oncology Groupの基準のパフォーマンスステータス(performance status:PS)が0〜2で、諸臓器機能が正常で糖尿病が無く、最近の体重減少を認めず、BMI(Body Mass Index)が20kg/m2以上の条件を満たす10例を対象にした。糖質を総カロリーの5%に制限した食事によってインスリン分泌を抑制し、栄養素摂取、体重、血清電解質、βヒドロキシ酪酸、インスリン、インスリン様増殖因子-1と2を測定して経過を観察した。PET検査は食事療法開始の前と終了時に実施した。
結果:10人の対象者は26〜28日間の糖質制限食を実施し、特に副作用を認めなかった。総カロリーの平均は治療開始前より35±6%減少し、体重は平均4%(0.0〜6.1%)減少した。食事療法開始前に腫瘍の早い進行を認めていた9例のうち5例で病状安定(stable
disease)あるいは部分奏功(partial remission)をPET検査で認めた。この5例は、進行を続けた4例と比較して、3倍の食事性ケトン症(dietary
ketosis)を示した。
腫瘍増殖の抑制を認めた5例と進展して4例の間には、カロリー摂取や体重減少の程度には差を認めなかった。ケトン症のレベルは血清インスリンの濃度を逆相関の関係にあった。
結論:この予備試験の結果は、インスリンの分泌を阻害する食事療法(糖質制限によるケトン食)は進行がん患者において安全に実施できる。この食事療法による抗腫瘍効果(病状安定および部分奏功)は、摂取カロリーや体重減少の程度とは関係せず、ケトン症の程度(血中ケトン体の濃度)に相関していた。標準治療の補完療法としてインスリン分泌を抑制する食事療法の有効性についてさらに大規模な臨床試験が望まれる。
【訳者注】
インスリンががん細胞の増殖を促進することは十分な根拠があります。したがって、インスリンの分泌を少なくする糖質制限食ががん細胞の増殖を抑制することも多くの動物実験や臨床試験などで示されています。
さらに、ケトン体ががん細胞の増殖を抑制する効果があり、糖質制限と高脂肪食によるケトン食が抗がん作用を示すことも最近多くの研究で明らかになっています。この報告は、進行がんの治療としてケトン食が十分に効果が期待できることを示しています。この研究で最も重要な結果は、血中のケトン体レベルが高いほど、がん細胞の増殖抑制効果が高いという点です。
摂取カロリー量や体重減少とは関連せず、ケトン体のみが奏功率と関連するということです。したがって、糖質制限と高脂肪食によるケトン食を行うとき、ケトン体を増やす工夫が最も重要だということです。
ケトン体を増やすためには、中鎖脂肪を多く摂取し、メトホルミンによって糖新生を阻害する方法は有効です。さらに、長鎖脂肪酸の吸収とβ酸化による分解を促進するために、脂肪分解酵素のリパーゼ、肝臓での長鎖脂肪酸のミトコンドリアへの運搬を促進するL-カルニチンの摂取も有効です。
このような方法を用いて、ケトン体を多く産生させると、食事だけでがんを縮小できるのです。
原文:
Nutrition. 2012
Oct;28(10):1028-35. Epub 2012 Jul 26.
Targeting insulin inhibition as
a metabolic therapy in advanced cancer: A pilot safety and feasibility
dietary trial in 10 patients.
Fine EJ, Segal-Isaacson CJ, Feinman RD, Herszkopf S, Romano MC, Tomuta N, Bontempo AF, Negassa A, Sparano JA.
Source
Department of Radiology
(Nuclear Medicine), Albert Einstein College of Medicine, Bronx, New York, USA.
Abstract
OBJECTIVE:
Most aggressive cancers
demonstrate a positive positron emission tomographic (PET) result using
(18)F-2-fluoro-2-deoxyglucose (FDG), reflecting a glycolytic phenotype.
Inhibiting insulin secretion provides a method, consistent with published
mechanisms, for limiting cancer growth.
METHODS:
Eligible patients with advanced
incurable cancers had a positive PET result, an Eastern Cooperative Oncology
Group performance status of 0 to 2, normal organ function without diabetes or
recent weight loss, and a body mass index of at least 20 kg/m(2). Insulin
inhibition, effected by a supervised carbohydrate dietary restriction (5%
of total kilocalories), was monitored for macronutrient intake, body weight,
serum electrolytes, β-hydroxybutyrate, insulin, and insulin-like growth
factors-1 and -2. An FDG-PET scan was obtained at study entry and exit.
RESULTS:
Ten subjects completed 26 to 28
d of the study diet without associated unsafe adverse effects. Mean caloric
intake decreased 35 ± 6% versus baseline, and weight decreased by a median of
4% (range 0.0-6.1%). In nine patients with prior rapid disease progression,
five with stable disease or partial remission on PET scan after the diet
exhibited a three-fold higher dietary ketosis than those with continued
progressive disease (n = 4, P = 0.018). Caloric intake (P = 0.65) and weight
loss (P = 0.45) did not differ in those with stable disease or partial
remission versus progressive disease. Ketosis was associated inversely with
serum insulin levels (P = 0.03).
CONCLUSION:
Preliminary data demonstrate that an insulin-inhibiting diet is safe and feasible in selected patients with advancedcancer. The extent of ketosis, but not calorie deficit or weight loss, correlated with stable disease or partial remission. Further study is needed to assess insulin inhibition as complementary to standard cytotoxic and endocrine therapies.
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