クルミは乳がんの発生と増殖を抑制する

f-gtc (2012年9月14日 08:11)

クルミは乳がんの発生と増殖を抑制する

Suppression of implanted MDA-MB 231 human breast cancer growth in nude mice by dietary walnut.(ヌードマウスに移植したヒト乳がん細胞MDA-MB231に対するクルミによる増殖抑制効果)Nutr Cancer 60(5): 666-74, 2008

米国ウェストバージニア州のマーシャル医科大学(Marshall University School of Medicine)の生化学・微生物学教室(Department of Biochemistry and Microbiology)からの報告です。

【要旨】
クルミにはオメガ3不飽和脂肪酸やフィトステロール、ポリフェノール、カロテノイド、メラトニンなどがん細胞の増殖を抑制する成分が多く含まれている。

ヌードマウスにヒト乳がん細胞MDA-MB231細胞の移植した動物実験モデルを用い、クルミを食餌から摂取させることによって、がん細胞の増殖に影響を及ぼすかどうかを検討する目的で実験を行った。

10%コーンオイルを添加した餌(AIN-76)で飼育しているヌードマウスにがん細胞を移植した。腫瘍が直径3〜5mmになった段階で2群に分け、1群の食餌はそのままで(コントロール群)、もう1群は粉末にしたクルミを添加し、人間で1日2オンス(56g)に相当する量を与えた(クルミ投与群)。

腫瘍の増殖速度は、コントロール群では14.6 ± 1.3 mm3/日であったのに対して、クルミ投与群では2.9 ±1.1 mm3/dayで、クルミ投与によって腫瘍の増大は顕著に抑制された。

肝臓の組織中のエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量は、コントロール群に比べてクルミ投与群で著明に増加していた。

クルミ投与によってがん細胞の増殖は抑制されたが、アポトーシスの割合には変化は認めなかった。人間での臨床試験でクルミの抗腫瘍効果を検討する価値があると思われる。

 

【訳者注】
クルミの乳がん予防効果が示されていますが、そのがん予防作用のメカニズムの一つとして、クルミにはω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富であることが言及されています。α-リノレン酸は必須脂肪酸で、体内でエイコサペンタエン酸(EPAドコサヘキサエン酸(DHAに変換されます。EPADHAのがん予防効果も多くの研究で支持されています。この実験では、クルミを摂取した群では肝臓組織のDHAEPAが増加していることが示されているので、クルミの抗がん作用がα-リノレン酸の関与が高い可能性を示唆しています。

一般に、食事から摂取する不飽和脂肪酸のω3とω6の比が大きくなるほど、がん予防効果や抗がん作用が強くなることが知られています。多くの動物実験で、ω3不飽和脂肪酸が乳がんの発生率を低下させることが示されています。

ただ、クルミの抗がん作用には、ω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸だけでなく、フィトステロールやポリフェノールやカロテノイドなどの相乗効果と考える方が妥当かもしれません。動物実験でクルミの抗腫瘍効果を検討した報告は多数あります。遺伝子改変の発がんマウスを使った実験でもクルミの発がん抑制効果が示されています。以下の論文は上に紹介した論文と同じ研究グループからの報告です。

 

Dietary walnut suppressed mammary gland tumorigenesis in the C(3)1 TAg mouse.(食餌からのクルミ摂取はC(3)1Tagマウスにおける乳がん発生を抑制する)Nutr Cancer. 2011;63(6):960-70.

【要旨】

クルミはω3不飽和脂肪酸や抗酸化物質やフィトステロールなどがん細胞の増殖を抑制する成分を多く含んでいる。以前の研究で移植した乳がん細胞の増殖をクルミの摂取が遅くすることが示されている。この研究では、クルミの摂取が乳がんの発生率を減らせるかどうかを検討する目的で行った。

オスのホモ接合C31 TagトランスジェニックマウスとメスのSV129マウスを交配させた。半接合のメスの子供(hemizygous)は乳離れしたあと、ランダムに2群に分け、一つの群は通常の餌(AIN-76)で飼育し、もう一群はクルミを含む餌で飼育し、乳がんの発生を検討した。
クルミを与えなかったコントロール群に比較して、クルミを与えたグループでは乳がんの発生頻度(腫瘍が一つ以上発生したマウスの割合)や腫瘍の数(マウス1匹当たりの腫瘍の数)やサイズが著明に減少した。
遺伝子発現の解析では、クルミの摂取によって、乳腺組織の増殖や分化に関連する複数の遺伝子の発現が変化した。
他の食品成分による介入試験との比較から、クルミのがん予防効果の全てをω3不飽和脂肪酸の含有だけでは説明できなかった。
この研究結果は、クルミを日頃から食べることは、乳がんを減らす健康的な食事に貢献する可能性が示唆された。

 

【訳者注】

この論文は前述の論文と同じ研究者からの報告です。前の論文では、ヌードマウスにヒト乳がん細胞を移植した実験系でクルミの抗腫瘍効果を示していますが、この実験では、乳がんを発生するように遺伝子を改変したマウス(トランスジェニックマウス)の実験モデルでクルミの乳がんの発生を予防する効果を検討しています。このトランスジェニックマウスは成長とともに乳がんを自然発症するのですが、乳離れしたあとの餌にクルミを混ぜて与えると、乳がんの発生が著明に抑制されることを示しています。つまり、小さいときから日頃からクルミを食べることは乳がんの予防に有効かもしれないということを意味しています。
動物実験で乳がんを予防しても、それが人間でも有効かどうかは人間での臨床試験の結果がでるまでは確定できませんが、循環器疾患などではクルミの予防効果が人間で証明されていますので、日頃からクルミを食べることは推奨されると思います。

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