漢方治療は膵臓がん患者の生存率を高める
漢方治療は膵臓がん患者の生存率を高める
台湾の医療ビッグデータを利用した疫学研究で、膵臓がん患者で漢方薬(中医薬)を使用した患者は、漢方薬を使用しなかった患者よりも生存率が高いことが示されています。漢方治療の期間が長いほど生存率が高いという用量依存性も示されています。以下のような報告があります。
Complementary Chinese Herbal Medicine Therapy Improves Survival of Patients With Pancreatic Cancer in Taiwan: A Nationwide Population-Based Cohort Study.(台湾において補完的な漢方治療は膵臓がん患者の生存率を高める:全国人口レベルのコホート研究)Integr Cancer Ther. 2018 Jun; 17(2): 411-422.
【要旨】背景:膵臓がんは治療が困難ながんであり、発見が遅れることが多く、予後は不良である。一部の患者は伝統的な中国医学の治療を受けている。我々は、台湾の膵臓がん患者における補完的な漢方薬治療の利点を調べることを目指した。
方法:1997年から2010年に台湾難治性疾患患者登録データベース(Taiwanese Registry for Catastrophic Illness Patients Database)に登録された全ての膵臓がん患者を対象とした。年齢、性別、膵臓がんと診断された年を一致させた1:1マッチング法を用いて、漢方治療を併用した386人と、漢方治療を併用しない386人を比較解析した。死亡リスクの危険率(ハザード比)はCox回帰モデルを用いて比較した。生存期間の差はKaplan-Meier曲線を用いて比較した。
結果:漢方薬の使用、年齢、性別、都市化レベル、他の病気の有無および治療に関して相互に調整されたCoxハザード比モデルによる解析で、漢方治療を受けた患者は死亡リスクのハザード比が低かった(調整ハザード比 = 0.67,95%信頼区間 = 0.56-0.79)。 漢方療法を90日間以上受けた患者は、漢方治療を受けなかった患者よりも死亡リスクのハザード比が有意に低かった。漢方治療を90〜180日間受けた群では、調整後ハザード比 = 0.56(95%信頼区間 = 0.42〜0.75)で、180日間以上漢方治療を受けた群では ハザード比= 0.33(95%信頼区間 = 0.24-0.45)であった。 漢方薬併用群の患者の生存率は高かった。
患者が使用した生薬と漢方方剤で最も頻度が高かったのは、単一の生薬では白花蛇舌草で、漢方処方では香砂六君子湯であった。
結論:補完的な中国薬草療法(漢方治療)は、膵臓がん患者の死亡率を低下させる可能性がある。今後はさらに前向き臨床試験によってこの結果を確認する必要がある。
【解説】
漢方薬(中医薬)治療を受けた期間が長いほど延命効果があるという結果です。
漢方処方では香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)が多く、単一の生薬では白花蛇舌草の使用頻度が高いという膵臓がんの漢方治療の特徴を明らかにしています。
香砂六君子湯は、胃腸虚弱で消化管に水分が停滞しやすいタイプに用いる六君子湯(人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、生姜、半夏、陳皮)に、さらに胃腸の機能を高め、食欲を亢進し、気分の塞さがりを開く働きがある香附子、縮砂、藿香を加えた処方です。六君子湯に抗うつ作用を加えた処方といえます。
香附子・縮砂・藿香は香りが良く、気の巡りを改善し、気うつの症状(気分が沈む、気分が塞がる、意気消沈する精神状態)を改善します。
膵臓がんでは胃腸の働きが低下し、食欲が低下します。さらにうつ症状を呈することが多く経験されます。したがって、進行した膵臓がん患者さんは香砂六君子湯の証が多くなるのかもしれません。
白花蛇舌草は抗がん作用のある生薬です。
白花蛇舌草の煎じ薬は、肝臓の解毒作用を高めて血液循環を促進し、白血球・マクロファージなどの食細胞の機能を著しく高め、リンパ球の数や働きを増して免疫力を高めます。多くのがんに広く使用され、良い治療効果が報告されています。 飲み易く刺激性が少ないので、食欲が低下した進行がんにも適しています。
漢方治療は膵臓がんの抗がん剤治療の副作用軽減と抗腫瘍効果増強に有効です。
その結果、QOL(生活の質)を高め、延命します。
図:(右)漢方治療は体力・免疫力を増強する効果と直接的な抗腫瘍作用(がん細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導など)によって、QOL(生活の質)の改善と延命効果がある。
(左)台湾の医療ビッグデータを利用した疫学研究で、膵臓がん患者で漢方薬(中医薬)を使用した患者は、漢方薬を使用しなかった患者よりも生存率が高いことが示されている。漢方治療の期間が長いほど生存率が高いという用量依存性も示されている。
【原文】
Integr Cancer
Ther. 2018 Jun;17(2):411-422. doi: 10.1177/1534735417722224. Epub 2017 Aug 3.
Complementary Chinese Herbal Medicine Therapy Improves Survival of Patients
With Pancreatic Cancer in Taiwan: A Nationwide Population-Based Cohort Study.
Abstract
BACKGROUND:
Pancreatic cancer is a difficult-to-treat cancer with a late presentation and poor prognosis. Some patients seek traditional Chinese medicine (TCM) consultation. We aimed to investigate the benefits of complementary Chinese herbal medicine (CHM) among patients with pancreatic cancer in Taiwan.
METHODS:
We included all patients with pancreatic cancer who were registered in the Taiwanese Registry for Catastrophic Illness Patients Database between 1997 and 2010. We used 1:1 frequency matching by age, sex, the initial diagnostic year of pancreatic cancer, and index year to enroll 386 CHM users and 386 non-CHM users. A Cox regression model was used to compare the hazard ratios (HRs) of the risk of mortality. The Kaplan-Meier curve was used to compare the difference in survival time.
RESULTS:
According to the Cox hazard ratio model mutually adjusted for CHM use, age, sex, urbanization level, comorbidity, and treatments, we found that CHM users had a lower hazard ratio of mortality risk (adjusted HR = 0.67, 95% CI = 0.56-0.79). Those who received CHM therapy for more than 90 days had significantly lower hazard ratios of mortality risk than non-CHM users (90- to 180-day group: adjusted HR = 0.56, 95% CI = 0.42-0.75; >180-day group: HR = 0.33, 95% CI = 0.24-0.45). The survival probability was higher for patients in the CHM group. Bai-hua-she-she-cao (Herba Oldenlandiae; Hedyotis diffusa Spreng) and Xiang-sha-liu-jun-zi-tang (Costus and Chinese Amomum Combination) were the most commonly used single herb and Chinese herbal formula, respectively.
CONCLUSIONS:
Complementary
Chinese herbal therapy might be associated with reduced mortality among
patients with pancreatic cancer. Further prospective clinical trial is
warranted.
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