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ビタミンD3+メトホルミン+ケトン食が乳がんに効く可能性がある
ビタミンD3+メトホルミン+ケトン食が乳がんに効く可能性がある
Effects of Pre-surgical Vitamin D Supplementation and Ketogenic Diet in a Patient with Recurrent Breast Cancer.(再発乳がん患者における術前のビタミンD補充とケトン食の効果)Anticancer Res. 2015 Oct;35(10):5525-32.
【要旨】
研究の背景:19歳で出産した1児の母親である女性が、1985年(37歳)に右の乳がんと診断された。患者は腫瘍の摘出(乳房温存手術)とリンパ節廓清、放射線治療を受けた。
1999年に左乳房に乳がんが見つかり、切除と放射線治療が行われ、さらにホルモン療法(タモキシフェン)を6年間受けた。
2014年の3月に、1985年に手術と放射線治療を受けた乳腺の残存乳腺組織から浸潤性乳管がんが発見された。
症例報告:術前の生検による病理検査では、プロゲステロン受容体(PgR)の発現は少なく(<1%)、エストロゲン受容体(ER)は強陽性(90%)で、ヒト上皮増殖因子受容体(HER2)は陽性(>10%, score 2+)、増殖活性を示す核タンパク質Ki67は強陽性(30%)であった。
診断から手術まで3週間あり、その間の治療の計画が無かったので、患者は自分の判断で、ビタミンD3(1日10,000 IU)と厳格なケトン食を実施した。
結果:右乳房切除を行われた。切除組織の病理検査でHER2の発現は全く認めず(陰性、score 0)で、PgRの発現は亢進していた(20%)。ERとKi67の陽性度は変化なかった。
結論:この症例は、高用量のビタミンD3とケトン食の併用は、乳がん細胞のHER2発現を抑制し、プロゲステロン受容体の発現を亢進するなど、乳がん細胞の生物学的性状に影響を及ぼす可能性を示唆している。
これは1例の症例報告ですので、高用量のビタミンD3とケトン食の併用が乳がんに有効かどうかのエビデンスは低いのですが、高用量のビタミンD3とケトン食はそれぞれ乳がんに対する効果が報告されているので、この2つの治療の併用を試してみる価値はあるかもしれません。
また、ビタミンD3とメトホルミンの相乗効果は乳がんや前立腺がんや大腸がんなどで報告されています。メトホルミンはAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化してAkt/mTORシグナル伝達系を阻害し、がん細胞の増殖を抑制します。ビタミンD3はメトホルミンの抗腫瘍効果を高めます。次のような報告があります。
Synergistic antitumor activity of vitamin D3 combined with metformin in human breast carcinoma MDA-MB-231 cells involves m-TOR related signaling pathways. (ヒト乳がん細胞MDA-MB-231細胞におけるビタミンD3とメトホルミンの併用による相乗的な抗腫瘍効果はmTOR関連のシグナル伝達系が関与する)Pharmazie. 2015 Feb;70(2):117-22.
メトホルミンは2型糖尿病の治療に使用されていますが、最近の多くの研究によって、メトホルミンとビタミンDは多くのがん細胞に対して抗腫瘍効果を示すことが示されています。
この研究では、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231を用いて、ビタミンD3とメトホルミンの併用はアポトーシス誘導において相乗効果があることを報告しています。その抗腫瘍効果の発現にはmTOR関連のシグナル伝達系が関与することを報告しています。つまり、ビタミンD3とメトホルミンはmTOR(哺乳類ラパマイシン標的蛋白質)の活性を阻害することによってアポトーシスを誘導することを示しています。
前立腺がんや大腸がんでも同様の効果が報告されています。
Vitamin D3 potentiates the growth inhibitory
effects of metformin in DU145 human prostate cancer cells mediated by AMPK/mTOR
signalling pathway. (ヒト前立腺がん細胞DU145におけるAMPK/mTORシグナル伝達系を介するメトホルミンの増殖阻害作用をビタミンD3は増強する)Clin Exp Pharmacol Physiol. 2015
Jun;42(6):711-7.
前述のようにメトホルミンはAMPKを活性化してAkt/mTORシグナル伝達系を抑制し、抗腫瘍効果を発揮します。ビタミンD3はメトホルミンのAkt/mTORシグナル伝達系の抑制効果を増強して、アポトーシス誘導を亢進するという作用機序です。
Akt/mTORシグナル伝達系は、インスリンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)などの増殖因子や成長因子で活性化され、タンパク質や脂質の合成や、細胞分裂や細胞死や血管新生やエネルギー産生などに作用してがん細胞の増殖を促進します。
メトホルミンはAMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、活性化してAMPKはmTORを抑制することによって、がん細胞の増殖を抑制します。
Combined use of vitamin D3 and metformin
exhibits synergistic chemopreventive effects on colorectal neoplasia in rats
and mice. (ビタミンD3とメトホルミンの併用はラットとマウスの結腸直腸がんの発生に対して相乗的な化学予防効果を示す)Cancer Prev Res (Phila). 2015 Feb;8(2):139-48.
この研究はラットとマウスを用いた大腸発がん実験での検討です。メトホルミンは化学発がんモデルで大腸がんの発生を抑制する作用があります。ビタミンD3はメトホルミンの発がん抑制作用を増強するという結果です。そのメカニズムとして、mTOR活性の抑制を認めています。さらに、ビタミンD3にはビタミンD受容体/β-カテニンのシグナル伝達系に作用してβ-カテニンの働きを抑制することによってc-MycやサイクリンD1の発現を抑制する作用も指摘しています。
ビタミンD3とメトホルミンの併用は、相乗効果によって発がん抑制や抗腫瘍効果を高めることができるという結論です。
ケトン食もAMPKを活性化し、Akt/mTORシグナル伝達系を抑制します。したがって、ケトン食を実践しているとき、ビタミンD3とメトホルミンを併用すると、抗腫瘍効果を高めることができます。
進行した乳がんの代替医療として、高用量(1日4000〜10000国際単位)のビタミンD3とメトホルミン(1日1000〜1500mg程度)とケトン食の組合せは、相乗効果が期待できると考えられます。ビタミンD3もメトホルミンも安価ですので、試してみる価値は高いと言えます。
この組合せは乳がんだけでなく、大腸がんや膵臓がんや肺がんなど他のがんにも効果が期待できます。
αリポ酸はAMPKシグナル系を亢進し、抗酸化力を高め、線維化を抑制する。
αリポ酸はAMPKシグナル系を亢進し、抗酸化力を高め、線維化を抑制する。
Alpha-lipoic acid attenuates cardiac fibrosis in Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty rats.(αリポ酸は大塚Long-Evans徳島肥満ラットにおける心臓線維化を軽減する)Cardiovasc Diabetol 2012 Sep 19;11:111. doi: 10.1186/1475-2840-11-111.
【要旨】
研究の背景:高血糖は心筋の酸化ストレスを高め、グルコースの恒常性のバランスを乱す。糖尿病性心筋症は心臓に肥大と線維化を特徴とする。しかしながら、糖尿病性心筋症の発症メカニズムは十分に解明されていない。
この研究は、大塚Long-Evans徳島肥満ラットにおける、心筋のエネルギー代謝、抗酸化作用、心臓の線維化に対するαリポ酸の作用を検討する目的で行った。
方法:非糖尿病のLong-Evans
Tokushima Otsuka (LETO)ラットと、糖尿病を発症するOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF)ラットに、αリポ酸投与群(200mg/kg/日)と非投与群に分けて16週間飼育した。
糖尿病性心筋症はSirius
Redによる染色で評価した。OLETFラットの心臓におけるAMPKシグナル系、抗酸化酵素、線維化関連遺伝子発現に対するαリポ酸の作用はウェスタンブロット法や組織染色で評価した。
結果:
糖尿病を発症するOLETFでは、LETOラットに比べて心臓のAMPKシグナル系の活性の低下が認められ、αリポ酸の投与によってOLETFラットにおけるAMPKシグナル系の活性は亢進した。さらに、OLETFラットにおける抗酸化活性の低下はαリポ酸投与によって亢進した。OLETFラットの心臓ではLETOラットの心臓に比べて、より多くの結合組織の増加を認め、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)と結合組織増殖因子(CTGF)の発現亢進を認めた。そして、これらの増加はαリポ酸の投与によって減少した。
結論:αリポ酸はAMPKシグナル系、抗酸化活性、線維化抑制効果を亢進した。これらの結果はαリポ酸が糖尿病性心筋症の治療において有益な効果を示すことが示唆された。
Cardiovasc Diabetol. 2012 Sep 19;11:111. doi: 10.1186/1475-2840-11-111.
Alpha-lipoic acid attenuates cardiac fibrosis in Otsuka
Long-Evans Tokushima Fatty rats.
Lee JE, Yi CO, Jeon BT, Shin HJ, Kim SK, Jung TS, Choi JY, Roh GS.
Source
Department of Anatomy, Institute of Health Sciences,
Gyeongsang National University School of Medicine, Jinju, Gyeongnam, Republic
of Korea.
Abstract
BACKGROUND:
Hyperglycemia leads to cardiac oxidative stress and an
imbalance in glucose homeostasis. Diabetic cardiomyopathy is characterised by
cardiac hypertrophy and fibrosis. However, the underlying mechanisms of
diabetic cardiomyopathy are not fully understood. This study aimed to
investigate the effects of alpha-lipoic acid (ALA) on cardiac energy
metabolism, antioxidant effect, and fibrosis in the hearts of Otsuka Long-Evans
Tokushima fatty (OLETF) rats.
METHODS:
Animals were separated into non-diabetic Long-Evans
Tokushima Otsuka (LETO) rats and diabetes-prone OLETF rats with or without ALA
(200 mg/kg/day) administration for 16 weeks. Diabetic cardiomyopathy was
assessed by staining with Sirius Red. The effect of ALA on AMPK signalling,
antioxidant enzymes, and fibrosis-related genes in the heart of OLETF rats were
performed by Western blot analysis or immunohistochemistry.
RESULTS:
Western blot analysis showed that cardiac adenosine
monophosphate-activated kinase (AMPK) signalling was lower in OLETF rats than
in LETO rats, and that ALA treatment increased the signalling in OLETF rats.
Furthermore, the low antioxidant activity in OLETF rats was increased by ALA
treatment. In addition to increased Sirius red staining of collagen deposits,
transforming growth factor-β1 (TGF-β1) and connective tissue growth factor
(CTGF) were expressed at higher levels in OLETF rat hearts than in LETO rat
hearts, and the levels of these factors were decreased by ALA.
CONCLUSIONS:
ALA enhances AMPK signalling, antioxidant, and
antifibrogenic effect. Theses findings suggest that ALA may have beneficial
effects in the treatment of diabetic cardiomyopathy.
αリポ酸はサーチュイン1の発現誘導とAMP活性化プロテインキナーゼの活性化によって脂肪酸の酸化を促進する
αリポ酸はサーチュイン1の発現誘導とAMP活性化プロテインキナーゼの活性化によって脂肪酸の酸化を促進する
α-Lipoic acid regulates lipid metabolism through induction of sirtuin 1 (SIRT1) and activation of AMP-activated protein kinase.(αリポ酸はsirtuin1(SIRT1)の発現誘導とAMP活性化プロテインキナーゼの活性化を介して脂肪代謝を調節する)Diabetologia 55(6): 1824-35, 2012年
【要旨】
目的と仮説:サーチュイン1(Sirtuin 1; SIRT1)は、栄養枯渇に応答してエネルギー産生と寿命を調節する長寿関連タンパク質である。肥満やメタボリック症候群の治療薬開発のターゲットとして注目されている。この研究では、C2C12筋管細胞(C2C12myotubes)において、αリポ酸がSIRT1の活性化や発現誘導を介して脂質低下作用を示すかどうかを検討した。
方法:培養したC2C12筋管細胞の培養液にαリポ酸を投与して、SIRT1阻害剤(ニコチンアミド)、SIRT1低分子干渉RNA(siRNA)、AMPK阻害剤(compound C)の存在下あるいは非存在下において、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC)、脂肪組織のトリアシルグリセロール・リパーゼ(ATGL)、脂肪酸合成酵素(FAS)の発現量、細胞内のトリアシルグリセロールの量、脂肪酸のβ酸化の変化を解析した。
生体内でのαリポ酸の脂質低下作用は、高脂肪食で飼育したストレプトゾトシン/ニコチンアミド誘発糖尿病マウスと遺伝性肥満マウス(db/db mice)を用いて検討した。
結果:C2C12筋管細胞(myotubes)においてαリポ酸はNAD+/NADH比を増加させ、SIRT1活性と発現量を高めた。その結果、αリポ酸はAMPKとACCのリン酸化を亢進し、パルミチン酸のβ酸化を亢進し、細胞内トリアシルグルセロール量を減少させた。
ニコチンアミドあるいはSIRT1siRNAで処理した細胞では、αリポ酸によって誘導されるAMPKとACCのリン酸化、細胞内トリアシルグリセロール量、
パルミチン酸のβ酸化は抑制された。これはシグナル伝達においてSIRT1がAMPKの上流に位置することを示している。
αリポ酸は脂肪組織トリアシルグリセロール・リパーゼ(ATGL)の発現を増やし、脂肪酸合成酵素(FAS)の発現を抑制した。
高脂肪食で飼育した糖尿病マウスとdb/dbマウスにαリポ酸を経口投与すると、体重と内臓脂肪の量が著明に減少した。
結論:培養細胞とマウスを使った実験で、αリポ酸はSIRT1とAMPKの両方を活性化し、脂質を低下させる効果を示した。これらの結果は脂質代謝異常や肥満の治療においてαリポ酸が有用な作用を示すことを示唆している。
【訳者注】
寿命を延ばす確実な方法としてカロリー制限があります。カロリー制限は、栄養不良を伴わない低カロリー食事療法で、霊長類を含む多岐にわたる生物種において老化を遅延させ、寿命を延長させることが知られています。
このカロリー制限のときに活性化されて寿命延長と抗老化作用に関与するのがサーチュイン遺伝子です。つまり、サーチュイン遺伝子が活性化されると老化が抑制されることになります。
サーチュインがAMPKの上流に位置するリン酸化酵素であるLKB1を脱アセチル化し、AMPKを活性化します。AMPKが活性化すると、AMPKは細胞内NAD+を増加させることでさらにサーチュイン活性が促進し、自ら活性が増強するループを形成しているという報告があります。
サーチュイン遺伝子やAMP活性化プロテインキナーゼの活性化はがん細胞の増殖を抑制する作用を持ちます。
AMPKの活性化は、細胞内の脂肪酸のβ酸化を亢進し、脂質合成に関与するアセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC)と脂肪酸合成酵素(FAS)の活性を阻害します。脂肪酸の合成が阻害され、β酸化が亢進するとがん細胞は増殖が阻害されます。
αリポ酸は抗酸化作用やグルコース代謝を促進する(αリポ酸はピルビン酸をアセチルCoAに変換するピルビン酸脱水素酵素の補酵素)作用が主体ですが、さらにSIRT1とAMPKを活性化して、脂肪酸のβ酸化を亢進して脂肪酸合成を阻害する作用もαリポ酸の抗腫瘍作用のメカニズムになっていると思われます。
【原文】
Diabetologia. 2012 Jun;55(6):1824-35. doi: 10.1007/s00125-012-2530-4.
Epub 2012 Mar 30.
α-Lipoic acid regulates lipid metabolism through
induction of sirtuin 1 (SIRT1) and activation of AMP-activated protein kinase.
Chen WL, Kang CH, Wang SG, Lee HM.
Source
Graduate Institute of Medical Sciences, College of
Medicine, Taipei Medical University, 250 Wu-Hsing Street, Taipei 110, Taiwan.
Abstract
AIMS/HYPOTHESIS:
Sirtuin 1 (SIRT1) is a longevity-associated protein,
which regulates energy metabolism and lifespan in response to nutrient
deprivation. It has been proposed to be a therapeutic target for obesity and
metabolic syndrome. We investigated whether α-lipoic acid (ALA) exerts a
lipid-lowering effect through regulation of SIRT1 activation and production in
C(2)C(12) myotubes.
METHODS:
ALA-stimulated AMP-activated protein kinase (AMPK),
acetyl-CoA carboxylase (ACC), adipose triacylglycerol lipase (ATGL) and fatty
acid synthase (FAS) production, as well as intracellular triacylglycerol
accumulation and fatty acid β-oxidation were analysed in the absence or
presence of a SIRT1 inhibitor (nicotinamide), SIRT1 small interfering (si) RNA
and an AMPK inhibitor (compound C) in C(2)C(12) myotubes. Mice with
streptozotocin/nicotinamide-induced diabetes and db/db mice fed on a high-fat
diet were used to study the ALA-mediated lipid-lowering effects in vivo.
RESULTS:
ALA increased the NAD(+)/NADH ratio to enhance SIRT1
activity and production in C(2)C(12) myotubes. ALA subsequently increased AMPK
and ACC phosphorylation, leading to increased palmitate β-oxidation and
decreased intracellular triacylglycerol accumulation in C(2)C(12) myotubes. In
cells treated with nicotinamide or transfected with SIRT1 siRNA, ALA-mediated
AMPK/ACC phosphorylation, intracellular triacylglycerol accumulation and
palmitate β-oxidation were reduced, suggesting that SIRT1 is an upstream
regulator of AMPK. ALA increased ATGL and suppressed FAS protein production in
C(2)C(12) myotubes. Oral administration of ALA in diabetic mice fed on a
high-fat diet and db/db mice dramatically reduced the body weight and visceral
fat content.
CONCLUSIONS/INTERPRETATION:
ALA activates both SIRT1 and AMPK, which leads to
lipid-lowering effects in vitro and in vivo. These findings suggest that ALA
may have beneficial effects in the treatment of dyslipidaemia and obesity.