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L-カルニチンはヒストンのアセチル化を高めて、がん細胞の増殖を抑制する
L-カルニチンはヒストンのアセチル化を高めて、がん細胞の増殖を抑制する
L-Carnitine Is an Endogenous HDAC Inhibitor Selectively Inhibiting Cancer Cell Growth In Vivo and In Vitro(L-カルニチンは内因性のヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤で、生体内(in vivo)および試験管内(in vitro)でがん細胞の増殖を選択的に阻害する)PLoS One. 2012; 7(11): e49062.
【要旨】
L-カルニチンは、一般的には、脂肪酸を分解してクエン酸回路でATPを産生するために、長鎖脂肪酸のアシル基をミトコンドリアのマトリックスに運搬する役目が知られている。がん細胞ではATP産生は主に細胞質での解糖系に依存しているというワールブルグの理論に基づいて、我々は、L-カルニチンをがん細胞に投与すると細胞代謝の調節に異常を来して細胞死を誘導するのではないかと予想した。この研究では、ヒト肝細胞がん細胞株のHepG2とSMMC-7721と、胸腺細胞の初代培養、HepG2を移植したマウスを用いた。ATP量はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法にて測定した。細胞周期はフローサイトメトリーにて、細胞死と生存率はMTSにて測定した。遺伝子、mRNA発現、タンパク量は、それぞれgene microarray、real-time PCR、ウェスタンブロット法にて測定した。ヒストン脱アセチル化酵素の活性とヒストンアセチル化の状態は試験管内および培養細胞にて測定した。L-カルニチンとヒストン脱アセチル化酵素の分子レベルでの相互作用はCDOCKER protocol of Discovery Studio 2.0にて行った。
以上の実験にて、以下のことが明らかになった。
(1) 培養細胞および移植腫瘍を使った実験系でL-カルニチンはがん細胞の増殖を選択的に抑制した。
(2) L-カルニチンの投与によって、がん細胞においてがん抑制遺伝子のp21cip1遺伝子の発現を選択的に高めたがp27kip1の発現は高めなかった。
(3) L-カルニチンは正常胸腺細胞とがん細胞の両方において、ヒストンのアセチル化を高め、アセチル化したヒストンの量を増やした。
(4) L-カルニチンはヒストン脱アセチル化酵素IとIIの活性部位に結合することによってこの酵素の活性を阻害し、ヒストンのリジンのアセチル化を高めた。
(5) L-カルニチンはp21cip1遺伝子の部分のクロマチンのアセチル化ヒストンの量を増やしたが、p27kip1遺伝子のクロマチンのアセチル化ヒストンの量には影響しなかった。
これらの結果は、L−カルニチンは脂肪酸のアシル基をミトコンドリアに運搬する役目の他に、ヒストン脱アセチル化酵素の内因性の阻害剤としても作用していることが示され、その生理的および病的意義の重要性が示唆された。
(訳者注)
人間の1個の細胞の核には、約30億対のヌクレオチドからなるDNA(デオキシリボ核酸)が格納されています。このDNAが遺伝子の本体です。
細胞核内では、DNAはヒストンという球状の蛋白質複合体に巻き付くような状態で存在します。ヒストンはリシン(リジン)やアルギニンといった塩基性(プラスの電荷をもつ)のアミノ酸が多く、酸性(マイナスの電荷をもつ)のDNAと強い親和性を持っています。
ヒストンは、長いDNAをコンパクトに核内に収納するための役割と同時に、遺伝子発現の調節にも重要な役割を果たしています。ヒストンによる遺伝子発現の調節は複雑ですが、簡単に言うと、「ヒストンとDNAの結合は転写に阻害的に働く」ということです。遺伝子が転写されるためには、転写因子やRNAポリメラーゼなどの他の蛋白質がDNAに結合する必要があり、ヒストンが結合していると転写に邪魔になります。したがって、転写の活発な遺伝子の部分ではヒストンとDNAの結合が緩くなっています。
DNAとヒストンの結合を緩くする機序として、「ヒストンのアセチル化」という現象があります。アセチル化というのは、アセチル(CH3CO)基が結合することです。
ヒストンのN末端領域のリシン残基のアミノ基(-NH2)がアセチル化という修飾を受けるとアミド(-NHCOCH3)に変換し、リシン残基の塩基性が低下して酸性のDNAとの親和性が無くなり、DNAからヒストンが離れ、DNAが露出することになります。
一般的に、ヒストンが高度にアセチル化されている領域の遺伝子は転写が活発に行われていることを示しています。すなわち、ヒストンのアセチル化は遺伝子発現を促進(正に制御)し、
反対に、ヒストンが脱アセチル化(低アセチル化)されることにより遺伝子発現は抑制(負に制御)されると考えられています。
ヒストンのアセチル化と脱アセチル化の反応は「ヒストンアセチル基転移酵素(=ヒストンアセチルトランスフェラーゼ)」と「ヒストン脱アセチル化酵素(=ヒストンデアセチラーゼ)」によってダイナミックに制御されており、遺伝子発現のON/OFFのメインスイッチになっていると考えられています。このように、ヒストンのアセチル化などによって遺伝子発現を調節する現象を「エピジェネティクス(epigenetics)」と言います。
がん発症の原因は,がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異,すなわち塩基配列上の変化が蓄積し,細胞増殖,接着,細胞死などの制御が異常になることによると考えられています。しかし,一方で遺伝子の塩基配列の変化を伴わない遺伝子の発現異常,すなわちエピジェネティックな変化も発がんに大きく寄与していることが近年明らかになってきました。
その中で遺伝子発現の活性を調節するヒストンアセチル化は重要な役割を果たすと考えられています。P21cip1は細胞周期の進行を担うサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性を抑制するインヒビターの一つで、細胞増殖の停止、分化や老化に関わっており、がん抑制因子として捉えられています。ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase)の阻害は、本論文のようにp21cip1のような細胞周期の進展を阻害する遺伝子の発現を高めることによってがん細胞の増殖を抑える作用が報告されており、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はがんの治療薬として注目されています。
L-カルニチンには、抗がん剤治療中やがん性悪液質における倦怠感を緩和する効果が臨床試験で示されています。さらに、この論文では、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害によるヒストンのアセチル化というエピジェネティックな機序によってがん細胞の増殖を抑える効果が示唆されていますので、がんの治療にL-カルニチンを多く摂取することは有用だと考えられます。
原文
PLoS One. 2012; 7(11): e49062.
Published online 2012 November 5. doi:
10.1371/journal.pone.0049062
PMCID: PMC3489732
L-Carnitine Is an Endogenous HDAC Inhibitor Selectively Inhibiting Cancer Cell Growth In Vivo and In Vitro
Abstract
L-carnitine (LC) is generally believed to transport long-chain acyl groups
from fatty acids into the mitochondrial matrix for ATP generation via the
citric acid cycle. Based on Warburg's theory that most cancer cells mainly
depend on glycolysis for ATP generation, we hypothesize that, LC treatment
would lead to disturbance of cellular metabolism and cytotoxicity in cancer
cells. In this study, Human hepatoma HepG2, SMMC-7721 cell lines, primary
cultured thymocytes and mice bearing HepG2 tumor were used. ATP content was
detected by HPLC assay. Cell cycle, cell death and cell viability were assayed
by flow cytometry and MTS respectively. Gene, mRNA expression and protein level
were detected by gene microarray, Real-time PCR and Western blot respectively.
HDAC activities and histone acetylation were detected both in test tube and in
cultured cells. A molecular docking study was carried out with CDOCKER protocol
of Discovery Studio 2.0 to predict the molecular interaction between
L-carnitine and HDAC. Here we found that (1) LC treatment selectively inhibited
cancer cell growth in vivo and in vitro; (2) LC treatment selectively induces
the expression of p21cip1 gene, mRNA and protein in cancer cells but not
p27kip1; (4) LC increases histone acetylation and induces accumulation of
acetylated histones both in normal thymocytes and cancer cells; (5) LC directly
inhibits HDAC I/II activities via binding to the active sites of HDAC and
induces histone acetylation and lysine-acetylation accumulation in vitro; (6)
LC treatment induces accumulation of acetylated histones in chromatin
associated with the p21cip1 gene but not p27kip1 detected by ChIP assay. These
data support that LC, besides transporting acyl group, works as an endogenous
HDAC inhibitor in the cell, which would be of physiological and pathological
importance.
カルニチン欠乏が無くても、カルニチンを補えば、脂肪酸酸化を高めることができる。
カルニチン欠乏が無くても、カルニチンを補えば、脂肪酸酸化を高めることができる。
健常成人における長鎖脂肪酸の酸化に対するL-カルニチンのサプリメントによる補充の効果(Effects of oral L-carnitine supplementation on in vivo long-chain
fatty acid oxidation in healthy adults.)Metabolism 51
(11): 1389-91, 2002
【要旨】
L-カルニチンの基本的な作用機序に関する文献は多数あるが、健常な人間に正常な状態においてL-カルニチンをサプリメントとして経口投与したとき、脂肪酸の酸化に対する効果に関しては、不明な点も多い。カルニチン欠乏のある時には、L-カルニチンの補充が長鎖脂肪酸の代謝を正常化させることは良く知られている。
しかしながら、脂肪酸代謝に異常が無い健常人にL-カルニチンを投与した場合に、長鎖脂肪酸の代謝にどのような影響を及ぼすのかに関しては、検討されていない。
そこで、この研究では、L-カルニチンをサプリメントで投与(1日1gづつを3回、10日間服用)し、投与前と投与後で、同位元素(13C)で標識したパルミチン酸の酸化を測定した。その結果、L-カルニチンを投与すると、13CO2の呼気への排泄が著明に増加した。
この研究結果より、カルニチン欠乏や脂肪酸代謝異常が無い健常人においても、L-カルニチンをサプリメントで補うことによって、長鎖脂肪酸の酸化を高めることが明らかになった。
【訳者注】
脂肪酸のうち、炭素の数が8〜12個の中鎖脂肪酸の場合は、消化管でグリセロールと脂肪酸に分解されたあと、中鎖脂肪酸は門脈から直接肝臓に運ばれ、すぐに肝臓のミトコンドリアで分解され、エネルギー産生に使用されます。中鎖脂肪酸はミトコンドリアに単独で入れます。
一方、炭素数が14以上の長鎖脂肪酸は、小腸で吸収されたあと、カイロミクロンとなってリンパ管へ入り、胸管から血液に入って、主に脂肪組織や筋肉組織に運ばれ、多くは貯蔵されます。エネルギーが必要になったとき、脂肪酸に分解され、ミトコンドリアに入って代謝されますが、このときL-カルニチンが必要です。つまり、L-カルニチンが無いと長鎖脂肪酸はミトコンドリアには入れないのです。
L-カルニチンは体内で合成され、肉な乳製品に豊富に含まれます。
したがって、健常な人では、体内にカルニチンが十分あるので、L-カルニチンをサプリメントで補充しても、意味が無い可能性もあります。しかし、この研究では、カルニチン欠乏の無い健常な人に対しても、L-カルニチンをサプリメントで補充すれば、長鎖脂肪酸の代謝を高めることができることが示されています。
つまり、ケトン食を実践するとき、中鎖脂肪酸だけでなく長鎖脂肪酸の摂取も増えますので、長鎖脂肪酸の代謝を促進するためにL-カルニチンをサプリメントで1日1〜3グラム程度補充する意味はあるようです。
【原文】
Effects of oral L-carnitine
supplementation on in vivo long-chain fatty acid oxidation in healthy adults.
Müller DM, Seim H, Kiess W, Löster H, Richter T.
Source
University of Leipzig, Children's
Hospital, Germany.
Abstract
Despite an abundance of
literature describing the basic mechanisms of action of L-carnitine metabolism,
there remains some uncertainty regarding the effects of oral L-carnitine
supplementation on in vivo fatty acid oxidation in normal subjects under normal
conditions. It is well known that L-carnitine normalizes the metabolism of
long-chain fatty acids in cases of carnitine deficiency. However, it has not
yet been shown that L-carnitine influences the metabolism of long-chain fatty
acids in subjects without disturbances in fatty acid metabolism. Therefore, we
investigated the effects of oral L-carnitine supplementation on in vivo
long-chain fatty acid oxidation by measuring 1-[(13)C] palmitic acid oxidation
in healthy subjects before and after L-carnitine supplementation (3 x 1 g/d for
10 days). We observed a significant increase in (13)CO(2) exhalation. This is
the first investigation to conclusively demonstrate that oral L-carnitine
supplementation results in an increase in long-chain fatty acid oxidation in
vivo in subjects without L-carnitine deficiency or without prolonged fatty acid
metabolism.
抗酸化物質+L-カルニチン+セレコキシブはがん性悪液質を改善する
抗酸化物質+L-カルニチン+セレコキシブはがん性悪液質を改善する
がん関連の食欲不振および悪液質を示す患者に対するカルニチン+セレコキシブ±酢酸メゲストロールの併用療法のランダム化第3相臨床試験
Clin Nutr 31(2):
176-82, 2012
【要旨】
研究の背景と目的:がん関連の食欲不振と悪液質(cancer-related
anorexia/cachexia syndrome)の治療におけるカルニチン+セレコキシブ±酢酸メゲストロールの2剤併用(天然成分の抗酸化物質を含む)の効果を比較する第3相ランダム化非劣性試験を行った。主要評価項目(primary endpoint)は除脂肪体重(lean body mass)の増加と総身体活動の改善で、副次エンドポイント(secondary endpoint)は握力と6分歩行試験の評価による体力の増加で評価した。
方法:60例のがん患者を第1群(L-カルニチン4g/日+セレコキシブ300mg/日)と第2群(L-カルニチン4g/日+セレコキシブ300mg/日+酢酸メゲストロール320mg/日)の2群にランダムに2つのグループに分けた。
すべての患者はポリフェノール(300mg/日)、αリポ酸(300mg/日)、カルボシステイン(2.7g/日)、ビタミンE,A,Cを組み合わせた抗酸化物質を基礎治療として投与した。治療期間は4ヶ月で、症例数は60例であった。
結果:主要および副次エンドポイントの両方において、2群の間に有意な差は認めなかった。除脂肪体重(二重エネルギーX線吸収測定法とCTで評価)と6分間歩行テストによって評価した体力は両群とも著明に増加した。副作用はきわめて軽微で無視できるレベルで両群に差は認めなかった。
結論:第1群の2剤併用(L-カルニチン+セレコキシブ)は酢酸メゲストロールを追加した第2群(L-カルニチン+セレコキシブ+酢酸メゲストロール)と比較して、効果の劣性を認めなかった(効果は同等)。
したがって、酢酸メゲストロールを追加しなくても、抗酸化物質とL-カルニチンとセレコキシブの併用による治療は、安全で安価で費用対効果の高い実施しやすい治療法として、がん性悪液質に治療に有効であることが示唆された。
【訳者注】
がん性悪液質は炎症性サイトカインや酸化ストレスの増大によって発生するので、抗炎症作用や抗酸化作用が有効であることが知られています。脂肪酸のミトコンドリアへの運搬に必要なL-カルニチンが、がん性悪液質状態のエネルギー産生を改善し体重を増やすことが報告されています。
シクロオキシゲナーゼ-2選択的阻害剤のセレコキシブ(celecoxib:商品名はセレブレックス、セレコックス)は抗炎症作用によって悪液質を改善することが報告されています。さらに、卵巣ホルモン製剤の酢酸メゲストロールも食欲を増進し体重を増やす効果が知られています。
この臨床試験では、抗酸化物質のサプリメントをベースにしてL-カルニチンとセレコキシブを併用した治療法に、酢酸メゲステロールを追加して効果が高まるかどうか比較しています。その結果、酢酸メゲストロールを追加しても効果に差は認めなかったということです。
酢酸メゲストロールを追加しなくても効果が同じであるので、抗酸化物質+L-カルニチン+セレコキシブで十分に効果が期待できるということになります。がん性悪液質の治療法を決める際、費用対効果の観点から参考になる研究結果だと思います。
がん性悪液質の改善にはサリドマイドやω3不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)も極めて効果が高いので、抗酸化性サプリメント(ポリフェノールやαリポ酸など)にL-カルニチン、セレコキシブ(商品名;セレコックス)、DHAやEPA、サリドマイドなどを併用する治療はがん性悪液質の治療に効果が期待できると思います。
L-カルニチンはがん性悪液質を緩和する
L-カルニチンはがん性悪液質を緩和する
L-カルニチン:がんにおける多作用性の抗消耗治療に適したサプリメント
Clin
Nutr. 2012 May 18. [Epub ahead of print]
【要旨】
研究の背景と目的:がんの増殖は脂肪組織と筋肉組織の減少による体重減少を引き起こす。
方法:高度の悪液質を引き起こすラットの主要のAH-130吉田腹水肝がん細胞を移植したラットにL-カルニチン(体重1kg当たり1g)を投与した。
結果:L-カルニチンの投与は、食餌摂取量と筋肉組織重量において著明な改善を示した。これらの効果により身体機能(身体活動の量、平均移動速度、総移動距離)は改善した。
L-カルニチンの投与は、プロテアソーム(タンパク質を分解する酵素複合体)の活性と、これに関連するユビキチンとC8プロテアソーム・サブユニットとMuRF-1の遺伝子の発現量を低下させた。さらに興味深いことに、L-カルニチン投与はcaspase-3(カスパーゼ-3)のmRNAの量を減らし、アポトーシスを制御する作用が示唆された。さらに、培養した筋肉細胞に50マイクロモルのL-カルニチンを添加すると蛋白質分解速度が著明に減少したので、蛋白分解を阻害する直接作用も示唆された。
結論:L-カルニチンの補充は、複数の作用機序によってがん性悪液質を改善する有効な治療法と結論できる。
原文:
Clin Nutr. 2012 May 18. [Epub ahead of print]
l-Carnitine: An adequate
supplement for a multi-targeted anti-wasting therapy in cancer.
Busquets S, Serpe R, Toledo M, Betancourt A, Marmonti E, Orpí M, Pin F, Capdevila E, Madeddu C, López-Soriano FJ, Mantovani G, Macciò A, Argilés JM.
Source
Cancer Research Group,
Departament de Bioquímica i Biologia Molecular, Facultat de Biologia,
Universitat de Barcelona, Barcelona, Spain; Institut de Biomedicina de la
Universitat de Barcelona, Barcelona, Spain.
Abstract
BACKGROUND & AIMS:
Tumour growth is associated with
weight loss resulting from both adipose and muscle wasting.
METHODS:
Administration of l-carnitine
(1 g/kg body weight) to rats bearing the AH-130 Yoshida ascites hepatoma,
a highly cachectic rat tumour.
RESULTS:
The treatment results in a
significant improvement of food intake and in muscle weight (gastrocnemius, EDL
and soleus). These beneficial effects are directly related to improved physical
performance (total physical activity, mean movement velocity and total
travelled distance). Administration of l-carnitine decreases proteasome
activity and the expression of genes related with this activity, such as
ubiquitin, C8 proteasome subunit and MuRF-1. Interestingly, l-carnitine
treatment also decreases caspase-3 mRNA content therefore suggesting a
modulation of apoptosis. Moreover, addition of 50 μM of l-carnitine to
isolated EDL muscles results in a significant decrease in the proteolytic rate
suggesting a direct effect.
CONCLUSIONS:
It can be concluded that
l-carnitine supplementation may be a good approach for a multi-targeted therapy
for the treatment of cancer-related cachexia.
L-カルニチンはカルニチン・パルミトイル基転移酵素(carnitine palmityl transferase)の発現と活性を制御することによってマウスのがん性悪液質を緩和する。Cancer Biol Ther. 2011 Jul 15;12(2):125-30.
【要旨】
がん性悪液質は脂肪組織と筋肉組織の減少を伴う進行性の体重減少によって特徴づけられる。主に肝臓におけるカルニチン・パルミトイル基転移酵素IとIIの活性の低下による脂肪酸酸化の障害が、がん性悪液質の発生に関与する重要な要因である。
最近の研究によってがん性悪液質の治療にL-カルニチンの投与の有効性が示されているが、その作用機序は不明である。
今回の研究では、がん性悪液質を起こしたマウスの肝臓におけるカルニチン・パルミトイル基転移酵素IとIIの活性と発現に対するL-カルニチンの作用を検討することを目的とした。
マウスに大腸がん細胞のcolon-26腺がん細胞を移植すると、食餌摂取量の低下と腓腹筋の筋肉量の減少と副睾丸の脂肪量の減少によって特徴づけられるがん性悪液質が発生した。さらに、がん性悪液質マウスでは、肝臓のカルニチン・パルミトイル基転移酵素IとIIのmRNA量と活性と血清中のフリーのカルニチンとアセチル・カルニチンの量は顕著に低下し、炎症性サイトカインの腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)とインターロイキン-6(IL-6)の血清濃度は上昇した。
がん性悪液質を呈したマウスに1日に18mg/kgのL-カルニチンを投与すると、食餌摂取量と腓腹筋の筋肉量と副睾丸の脂肪組織の量が増加し、血中のグルコースとアルブミン量が増加し、総コレステロール量は減少した。しかし、がん組織の増殖には影響しなかった。
がん性悪液質のマウスにL-カルニチンと投与すると、肝臓におけるカルニチン・パルミトイル基転移酵素IとIIのmRNA量と活性が上昇し、血清TNF-αとIL-6の量が減少した。これらの結果から、L-カルニチンは、血清TNF-αとIL-6量と、肝臓におけるカルニチン・パルミトイル基転移酵素IとIIの発現と活性に作用することによって、がん性悪液質を緩和することが示された。
原文
Cancer Biol Ther. 2011 Jul 15;12(2):125-30.
L-carnitine ameliorates cancer
cachexia in mice by regulating the expression and activity of carnitine
palmityl transferase.
Liu S, Wu HJ, Zhang ZQ, Chen Q, Liu B, Wu JP, Zhu L.
Source
Department of Gastroenterology,
Zhabei District Central Hospital, Shanghai, China. liusu2222@163.com
Abstract
Cancer cachexia is characterized by progressive weight loss with the depletion of adipose tissue and skeletal muscle. Impaired fatty acid oxidation mainly resulting from the decrease of carnitine palmitoyltransferase I and II activities in the liver is an important factor that contributes to cancer cachexia . Although recent studies suggest a potential application of L-carnitine in treatment of cancer cachexia, the underlying mechanisms are unknown. In the present study, we aim to assess the effects of L-carnitine on the activity and expression of CPT I and II in the liver of cachectic cancer mice. Our results show that the inoculation of colon-26 adenocarcinoma cells into mice led to cancer cachexia characterized by notable decreases in food intake, gastrocnemius muscle and epididymus fat weight. In addition, the mRNA level and activity of liver carnitine palmitoyltransferase (CPT) I and II, and serum levels of free carnitine and acetylcarnitine were markedly decreased in cachectic mice, accompanied by marked increases in serum levels of tumor necrosis factor-alpha (TNF-α) and interleukin-6 (IL-6). A continuous oral treatment with L-carnitine at 18 mg/kg per day increased dietary uptake, gastrocnemius muscle weight and epididymus fat weight, increased blood glucose and serum albumin levels, and decreased total cholesterol level in cancer cachectic mice, but did not affect tumor growth. These effects of L-carnitine on cancer cachexia mice were accompanied by the upregulation of mRNA level of CPT I and II and increased enzyme activity of CPT I in the liver, as well as the downregulation of serum TNF-α and IL-6 levels. Moreover, free carnitine levels were negatively correlated with serum TNF-α or IL-6 level. These results indicate that L-carnitine ameliorates cancer cachexia by regulating serum TNF-α and IL-6 levels and modulating the expression and activity of CPT in the liver.
L-カルニチンは進行膵臓がんの悪液質による体重減少を防ぐ
L-カルニチンは進行膵臓がんの悪液質による体重減少を防ぐ
進行膵臓がんにおけるL-カルニチンの補充 - ランダム化多施設臨床試験
Nutr J. 11(1):52, 2012 [Epub ahead of print]
【要旨】
研究の背景:体重が10%以上減少するがん性悪液質は膵臓がんの予後を悪くする要因の一つである。L-カルニチンの欠乏ががん性悪液質の発症に関連していることが報告されている。
結果:152例の進行膵臓がん患者をスクリーニングし、72例を対象に前向き・多施設・プラセボ対照・ランダム化二重盲検臨床試験にて、L-カルニチン(4g)投与群とプラセボ群投与群に分け、12週間の投与を行った。
この試験を開始する前に患者は平均12±2.5kgの体重減少を起こしていた。12週間の試験期間後、ボディマス指数(body-mass-index: BMI)は、L-カルニチン投与群では3.4±1.4%増加したが、コントロール群(プラセボ投与群)では1.5±1.4%の減少であった。この差は統計的に有意であった(p<0,05)。さらに、栄養状態(body cell massと体脂肪)と生活の質(QOL)の指標はL-カルニチン投与群で改善した。平均生存期間はL-カルニチン投与群が519±50日に対してコントロール群は399±43日で、L-カルニチン投与群の方が生存期間が延長する傾向を認めた(ただし統計的な有意差は認められなかった)。入院期間はL-カルニチン投与群で36±4日に対してコントロール群は41±9日で、L-カルニチン投与群の方が入院期間が短い傾向を認めた。
結論:今回の結果はまだ予備試験の段階で、より大規模な臨床試験で確かめる必要があるが、L-カルニチンのサプリメントでの補充は、進行膵臓がん患者に治療において臨床的な利益を与えることが示された。
原文:
Nutr J.
2012 Jul 23;11(1):52. [Epub ahead of print]
L-Carnitine-supplementation
in advanced pancreatic cancer (CARPAN) - a randomized multicentre trial.
Kraft M, Kraft K,
Gärtner S,
Mayerle J,
Simon P,
Weber E,
Schütte K,
Stieler J,
Koula-Jenik H,
Holzhauer P,
Gröber U,
Engel G,
Müller C,
Feng YS,
Aghdassi A,
Nitsche C,
Malfertheiner P,
Patrzyk M,
Kohlmann T,
Lerch MM.
Abstract
BACKGROUND:
Cachexia, a >10% loss of body-weight, is one
factor determining the poor prognosis of pancreatic cancer. Deficiency of L-Carnitine
has been proposed to cause cancer cachexia.
FINDINGS:
We screened 152 and enrolled 72 patients suffering
from advanced pancreatic cancer in a prospective, multi-centre,
placebo-controlled, randomized and double-blinded trial to receive oral L-Carnitine
(4g) or placebo for 12 weeks. At entry patients reported a mean weight loss of
12 +/- 2,5 (SEM) kg. During treatment body-mass-index increased by 3,4 +/- 1,4%
under L-Carnitine and decreased (-1,5 +/- 1,4%) in controls (p<0,05).
Moreover, nutritional status (body cell mass, body fat) and quality-of-life
parameters improved under L-Carnitine. There was a trend towards an increased
overall survival in the L-Carnitine group (median 519 +/- 50 d versus 399 +/-
43 d, not significant) and towards a reduced hospital-stay (36 +/- 4d versus 41
+/- 9d).
CONCLUSION:
While these data are preliminary and need confirmation they indicate that patients with pancreatic cancer may have a clinically relevant benefit from the inexpensive oral supplementation of L-Carnitine.
【訳者注】
悪液質(あくえきしつ:cachexia, カヘキシー)というのは、慢性疾患の経過中に起こる主として栄養失調に基づく病的な全身の衰弱状態で、全身衰弱、羸痩(るいそう)、浮腫、貧血による皮膚蒼白などの症状を呈します。進行がんによる悪液質の場合、がんは宿主を無視して増殖するため体に必要な栄養素を奪い取り、さらにがん細胞から分泌される物質や老廃物の蓄積、炎症細胞からのサイトカインの過剰分泌、血液循環障害など多くのメカニズムが積み重なっています。
飢餓での体重減少は貯蔵脂肪の涸渇が主ですが、悪液質では骨格筋と体脂肪の両方が失われ、体力が急速に低下します。悪液質になると、食欲不振や倦怠感などの症状が現れ、治癒力や抵抗力が低下してQOL(Quality od Life, 生活の質)を悪くする原因となります。抵抗力が低下すると感染症が発生して、ますます体力がなくなり死亡の原因となります。
悪液質の一つの基準は6ヶ月間で10%以上の体重減少ですが、進行膵臓がんの場合、80%以上の症例で悪液質が発症します。手術や抗がん剤治療が体重減少や悪液質を悪化させます。
がんの末期も死期を決める最大の要因は生体防御力や抵抗力のレベルにかかっています。がんの増殖を抑えることができなくても、がん患者の衰弱と死亡の直接的な原因である悪液質の状態を軽減できれば、延命効果が得られます。
L-カルニチンは細胞内における脂質の代謝に不可欠で、不足するとミトコンドリアでの脂肪酸の燃焼が障害されて、細胞におけるエネルギー産生が低下してしまいます。脂肪酸はL-カルニチンが結合しないとミトコンドリアの中に入ることができないからです。
体脂肪の燃焼を促進することで、ダイエットのサプリメントとして人気がありますが、細胞のエネルギー産生を高める効果があるので、様々な病気の治療にも応用されています。癌においても、抗がん剤治療による倦怠感や抑うつ気分を軽減する効果が報告されています。
L-カルニチンはヒトの体内で合成されます。カルニチンの合成には2つの必須アミノ酸(リジン、メチオニン)、3つのビタミン(ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6)、還元型鉄イオンが必要で、これらの栄養素の一つでも不足すればカルニチンは不足することになります。
L-カルニチンの合成は肝臓、腎臓、脳でのみ起こります。心臓と骨格筋のように、脂肪酸の酸化によって主なエネルギーを得ている組織は、カルニチンを合成できないため、血液中のカルニチンを取り込んで利用しています。
食事性カルニチンの主な供給源は肉類と乳製品であり、穀類、果物、野菜にはほとんど含まれていません。体内で合成されますが、がんの治療で体力が消耗したり、栄要素が不足するとL-カルニチンの欠乏がおこり、細胞内でのエネルギー産生が低下します。抗がん剤治療中には、腸粘膜の障害で食事性カルニチンの吸収が低下し、肝臓や腎臓機能のダメージで体内での合成が低下し、尿中の排泄も増えることが指摘されています。
がんの代替医療では菜食主義を徹底する治療法もありますが、肉や乳製品を完全に排除する食事もカルニチンの不足を引き起こします。
したがって、抗がん剤治療中をはじめ、がん患者が訴える倦怠感や体力低下に、体内でのL-カルニチンの不足の関与が指摘されています。カルニチンの不足は脳でのエネルギーの枯渇を引き起こし、抑うつ気分や思考力の低下の原因にもなります。
L-カルニチンが抗がん剤治療中の倦怠感や抑うつ気分を改善するという臨床報告があります。例えば、イタリアのUrbino病院の研究では、抗がん剤治療を受けた後、倦怠感を訴えた30人を対象に、L-カルニチンを1日4gを 7日間投与したところ、26人(87%)の患者で倦怠感が軽減しました。
抗がん剤のアドリアマイシンの心臓へのダメージをL-カルニチンが軽減したという報告もあります。シスプラチンによる腎臓障害を防いだり、タキソールによる神経障害を軽減する効果も報告されています。 L-カルニチンは極めて安全性が高く、ヒトにおける臨床研究においても有意な副作用はまったく報告されていません。ただし、D-カルニチンは、天然のL-カルニチンの作用を阻害し、心筋および骨格筋におけるL-カルニチン欠乏症を生じさせますので、天然型のL-カルニチンを利用することが大切です。 また、カルニチンは、いかなる薬物や栄養素とも逆相互作用が認められていません。カルニチンとコエンザイムQ10とを組み合わせると、相乗的に働くことがわかっています。
参考文献
Potential role of levocarnitine supplementation for
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