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メトホルミンは直腸がんの化学放射線療法の効き目を高める
メトホルミンは直腸がんの化学放射線療法の効き目を高める
Metformin use and improved response to therapy in
rectal cancer(メトホルミンは直腸がんの治療効果を高める)Cancer Med.
2(1): 99-107, 2013年
【要旨】
原発部位が進行している直腸がんの場合は、手術前に化学放射線治療(chemoradiation)を行って腫瘍を縮小させてから全直腸間膜切除術(TME;total mesorectal excision)を行うことが多い。
メトホルミンが直腸がんの化学予防剤として有効である可能性や、直腸がんの治療効果を高める可能性が今までの多くの研究によって示唆されている。
そこで、この研究では、直腸がんの化学放射線治療の病理学的完全奏功率(pathologic complete response rates)と予後に対するメトホルミンの効果を検討した。
局所進行した直腸腺がんで1996年から2009年の間に化学放射線療法と全直腸間膜切除術を受けた482例のカルテを検証した。
放射線照射量の中央値は50.4Gy(19.8〜63 Gy)で、98%の患者は5-FUをベースにした抗がん剤の同時投与を受け、81.3%は放射線治療後に抗がん剤治療を受けた。
422例は非糖尿病患者で、40例は糖尿病がありメトホルミンを服用していない患者で、20例は糖尿病があってメトホルミンを服用していた。
この3つのグループの間には、がんの臨床的分類や、リンパ節転移の状況、肛門からの腫瘍の距離、がんの深達度、診断時の腫瘍マーカー(CEA)の値、がん細胞の分化度において差を認めなかった。
病理学的完全奏功(pathologic complete response)の率は、非糖尿病患者が16.6%、メトホルミンの投与を受けていない糖尿病患者が7.5%、メトホルミンを服用している糖尿病患者が35%であった。
メトホルミンを服用している糖尿病の患者のグループは、非糖尿病のグループ(p=0.03)と糖尿病でメトホルミンを服用していないグループ(p=0.007)と比べて、統計的有意に化学放射線治療の病理学的完全奏功率が高かった。
メトホルミンの併用は、単変量解析(p=0.05)と多変量解析(p=0.01)の療法の解析で、病理学的完全奏功率と統計的有意に相関していた。
さらに、メトホルミンを服用している糖尿病患者では、メトホルミンを服用していない糖尿病患者に比べて、無再発生存期間(p=0.013)と全生存期間(p=0.008)が統計的有意に長かった。
メトホルミンの服用は、直腸がんの術前化学放射線治療の病理学的完全奏功率を高め、生存期間を延長する効果が認められた。さらに前向き研究によって、このメトホルミンの効果を検証する必要がある。
(訳者注)
この論文は、米国のテキサス大学MDアンダーソンがん研究所からの研究報告です。
局所進行した直腸がんの場合、手術で切除する前に放射線治療と5-FUベースの抗がん剤治療の併用によって腫瘍を縮小させてから摘出手術を行うことが欧米では標準治療となっており、手術単独の場合にくらべて優れた治療成績が報告されています。日本でも術前の化学放射線療法を併用する所が増えています。
手術前に化学放射線治療を行って、手術で切除したがん組織を病理で検査すると、生きたがん細胞が見つからない(がんが完全に死滅している)場合があり、これを病理学的完全奏功(pathological complete response)といいます。
病理学的完全奏功が認められた患者さんは、再発率が低く、予後が極めて良いとこが明らかになっています。したがって、手術前の化学放射線療法(放射線治療と抗がん剤治療)の効果を高めるための抗がん剤の組み合わせの検討や、化学放射線療法の効き目を高める補助療法の検討が行われています。
この臨床試験は、過去に遡った後ろ向きの研究ですが、メトホルミンが直腸がんの化学放射線療法の効果を高めることが示されています。
通常、糖尿病があると、直腸がんや大腸がんの手術後の再発率が高くなることが、過去の疫学研究で示されています。さらに、直腸がんの術前化学放射線療法の効果も低いことが知られています。ある臨床試験では、直腸がんの術前化学放射線療法で病理学的完全奏功率が非糖尿病患者で23%に対して糖尿病患者では0%という結果が報告されています(Ann. Surg. Oncol. 2008;15:1931-1936)。
しかし、メトホルミンを服用している糖尿病患者は、メトホルミンを服用していない糖尿病患者だけでなく、糖尿病がない(したがってメトホルミンも服用していない)患者よりも、病理学的完全奏功の率が高かったという結果が得られており、メトホルミン自体に化学放射線療法の効果を高める作用を示唆しています。
直腸がんの術前化学放射線治療における病理学的完全奏功率は、今までの臨床試験では15%前後の数値が報告されています。この論文のデータでも非糖尿病のグループの病理学的完全奏功率は16.6%です。それに比べてメトホルミンを服用しているグループでは35%に増えています。
メトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素を阻害してATP産生を阻害し、AMP依存性プロテインキナーゼを活性化する作用があり、その他にも複数の抗腫瘍効果が報告されています。
がん細胞のエネルギー産生を抑制することは抗がん剤や放射線の治療効果を高める方法として有効であることは十分に理解できると思います。
メトホルミンは糖尿病の治療薬ですが、インスリン感受性を高めてインスリンの分泌を減らす作用(少ないインスリン量で血糖をコントロールできるようにする作用)であるため、糖尿病がなくても服用できます。
最近は糖尿病が無いがん患者にメトホルミンを投与して抗がん剤の効き目を高めるを作用を認めたという報告もあります。
抗がん剤や放射線治療の補助療法としてメトホルミンの併用は有用と言えそうです。
◎ メトホルミンの抗がん作用については以下のサイトで解説しています。
http://www.1ginzaclinic.com/metfomin/metformin.html
(原文)
Cancer Med. 2013 Feb;2(1):99-107.
doi: 10.1002/cam4.54. Epub 2013 Feb 3.
Metformin use and improved response
to therapy in rectal cancer.
Skinner HD, Crane CH, Garrett CR, Eng C, Chang GJ, Skibber JM, Rodriguez-Bigas MA, Kelly P, Sandulache VC, Delclos ME, Krishnan S, Das P.
Author information
Abstract
Locally advanced rectal cancer is commonly treated with chemoradiation prior to total mesorectal excision (TME). Studies suggest that metformin may be an effective chemopreventive agent in this disease as well as a possible adjunct to current therapy. In this study, we examined the effect of metformin use on pathologic complete response (pCR) rates and outcomes in rectal cancer. The charts of 482 patients with locally advanced rectal adenocarcinoma treated from 1996 to 2009 with chemoradiation and TME were reviewed. Median radiation dose was 50.4 Gy (range 19.8-63). Nearly, all patients were treated with concurrent 5-fluorouracil-based chemotherapy (98%) followed by adjuvant chemotherapy (81.3%). Patients were categorized as nondiabetic (422), diabetic not taking metformin (40), or diabetic taking metformin (20). No significant differences between groups were found in clinical tumor classification, nodal classification, tumor distance from the anal verge or circumferential extent, pretreatment carcinoembryonic antigen level, or pathologic differentiation. pCR rates were 16.6% for nondiabetics, 7.5% for diabetics not using metformin, and 35% for diabetics taking metformin, with metformin users having significantly higher pCR rates than either nondiabetics (P = 0.03) or diabetics not using metformin (P = 0.007). Metformin use was significantly associated with pCR rate on univariate (P = 0.05) and multivariate (P = 0.01) analyses. Furthermore, patients taking metformin had significantly increased disease-free (P = 0.013) and overall survival (P = 0.008) compared with other diabetic patients. Metformin use is associated with significantly higher pCR rates as well as improved survival. These promising data warrant further prospective study.
メラトニンは卵巣がんに対するシスプラチンのアポトーシス誘導効果を増強する
メラトニンは卵巣がんに対するシスプラチンのアポトーシス誘導効果を増強する
タイトル(日本語訳):
『メラトニンは卵巣がん細胞SK-OV-3細胞において、ERK/p90 リボゾームS6キナーゼ/ヒートショック蛋白27の脱リン酸化を介して、シスプラチンによって誘導されるアポトーシスを相乗的に促進する』J Pineal Res. 2012 Mar;52(2):244-52.
【要旨】
シスプラチンによる卵巣がんに対する治療の効果を、メラトニンが高めるかどうかを検討するために、この実験は行われた。
ヒト卵巣がん細胞のSK-OV-3細胞に対してメラトニンは単独では細胞毒性を示さないが、シスプラチンは用量依存的に細胞生存率を抑制する。
シスプラチンとメラトニンを併用すると、SK-OV-3細胞の生存率を相乗的に減少させた。
一方、正常な卵巣細胞であるOSEN細胞に対しては、メラトニンはシスプラチンの細胞毒性からOSEN細胞を保護する作用を示した。
シスプラチン単独で投与した場合に比べて、シスプラチン+メラトニンを投与した場合は、がん細胞(SK-OV-3細胞)のsub-G1期のDNA量と、TdT-mediated dUTP nick end-labeling (TUNEL)-陽性細胞が増加した。これは、シスプラチンによる卵巣がん細胞のアポトーシス誘導をメラトニンが増強することを意味している。シスプラチンとメラトニンの併用投与はcaspase-3とpoly-(ADP-ribose) polymerase (PARP)の切断を増やした。
重要なことは、メラトニンはシスプラチンによって誘導される 90-kDa
ribosomal S6 kinase (p90RSK) とヒートショックタンパク( heat shock protein)27 (HSP27) を脱リン酸化させ、同時にextracellular signal-regulated kinase (ERK)のリン酸化を相乗的に阻害した。
さらに、シスプラチン投与によって誘導されるp90RSK とHSP27の発現と共存在(colocalizaton)をメラトニンは著明に阻害した。
これらの結果より、ヒト卵巣がん細胞SK-OV-3細胞のERK/p90RSK/HSP27 cascadeの不活性化を介して、メラトニンはシスプラチンによるアポトーシスを促進することが示された。
【訳者注】
シスプラチンを投与すると、がん細胞はシスプラチンに抵抗しようと細胞内シグナル伝達系を活性化してアポトーシスを起こしにくくするメカニズムが作用します。この耐性獲得にextracellular signal-regulated kinase (ERK)/90-kDa ribosomal S6 kinase (p90RSK) /ヒートショックタンパク( heat shock protein)27 (HSP27) のリン酸化が関与しており、メラトニンはこのリン酸化を阻害することによって、卵巣がん細胞に対するシスプラチンのアポトーシス誘導作用を増強するという結果です。
培養細胞を使ったin vitro(試験管内)の実験なので、生体内でどの程度効果があるかは不明ですが、卵巣がんのシスプラチン治療に対してメラトニンを併用する根拠になるかもしれません。
メラトニンについてはこちらへ
英文原文:
J Pineal Res. 2012
Mar;52(2):244-52.
Melatonin
synergistically enhances cisplatin-induced apoptosis via the dephosphorylation
of ERK/p90 ribosomal S6 kinase/heat shock protein 27 in SK-OV-3 cells.
Kim JH, Jeong SJ, Kim B, Yun SM, Choi do Y, Kim SH.
Source
College of Oriental
Medicine, Kyung Hee University, Seoul, South Korea.
Abstract
To evaluate melatonin's ability to enhance ovarian cancer cells to cisplatin treatment for ovarian cancer, this study was performed. Melatonin by itself had no significant cytotoxicity against SK-OV-3 cells, while cisplatin suppressed the cell viability in a dose-dependent manner. Combined treatment with cisplatin and melatonin synergistically inhibited the viability of SK-OV-3 cells with the synergism between two drugs (1 > combination index). In contrast, melatonin revealed the protective effect against cisplatin-induced cytotoxicity in OSEN normal ovarian epithelial cells. Cotreatment with cisplatin and melatonin increased the sub-G1 DNA contents and TdT-mediated dUTP nick end-labeling (TUNEL)-positive cells compared with cisplatin control in SK-OV-3 cells, suggesting that melatonin augments cisplatin-induced apoptosis. Consistently, combined treatment of cisplatin and melatonin increased the cleavage of caspase-3 and poly-(ADP-ribose) polymerase (PARP). Importantly, melatonin synergistically inhibited the phosphorylation of extracellular signal-regulated kinase (ERK) along with dephosphorylation of 90-kDa ribosomal S6 kinase (p90RSK) and heat shock protein 27 (HSP27) induced by cisplatin. Furthermore, melatonin remarkably blocked the expression and colocalization of p90RSK and HSP27 by combination treatment with cisplatin. Taken together, our findings demonstrate that melatonin enhances cisplatin-induced apoptosis via the inactivation of ERK/p90RSK/HSP27 cascade in SK-OV-3 cells as a potent synergist to cisplatin treatment.