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メトホルミンは卵巣がんのがん幹細胞の増殖を抑制する。
メトホルミンは卵巣がんのがん幹細胞の増殖を抑制する。
メトホルミンは試験管内(in vitro)および生体内(in vivo)において卵巣がんのがん幹細胞をターゲットにする(Metformin
targets ovarian cancer stem cells in vitro and in vivo.)Gynecol Oncol. 2012 Nov;127(2):390-7.
【要旨】
目的:婦人科がん以外のがん細胞を使った研究では、メトホルミンががん幹細胞の増殖を阻害することが示されている。
糖尿病をもつ卵巣がん患者における研究では、メトホルミンを服用しているグループでは服用していないグループに比較して生存率が高いことが示されている。この研究の目的は、卵巣がんのがん幹細胞に対するメトホルミンの作用を検討することである。
方法:培養した卵巣がん細胞株の増殖と生存率に対するメトホルミンの作用はトリパンブルー染色法にて評価した。アルデヒド脱水素酵素(Aldehyde
dehydrogenase: ALDH)を発現しているがん幹細胞はFACS(フローサイトメトリー)で定量した。培養した卵巣がん細胞株やヒト卵巣がん組織から分離したがん幹細胞の増殖に対するメトホルミンの作用はスフェアアッセイ法(がん細胞は非接着条件で培養すると殆どの細胞が死ぬが、がん幹細胞はsphereを作って生育できることを利用したがん幹細胞の試験法)で検討した。
生体内(in vivo)におけるメトホルミンの治療効果と抗がん幹細胞効果は、培養がん細胞とALDH陽性のがん幹細胞を移植した腫瘍で確認した。
結果:メトホルミンは培養卵巣がん細胞の増殖を顕著に抑制した。この抑制効果はシスプラチンと相加的に作用した。メトホルミンがALDH陽性の卵巣がん幹細胞を減少させることはフローサイトメトリー分析で確認された。生体内(in vivo)の試験で、全ての卵巣がん細胞株の移植腫瘍に対するシスプラチンの増殖抑制作用を著明に増強した。さらに、メトホルミンはALDH陽性のがん幹細胞の移植腫瘍の増殖を抑制した。この作用はALDH陽性がん幹細胞と細胞増殖と血管新生の減少と関連していた。
結論;培養(in vitro)と生体内(in vivo)の実験系でメトホルミンは卵巣がん幹細胞の成長と増殖を抑制することができる。この作用は培養卵巣がん細胞株とヒト卵巣がん組織から分離したがん幹細胞のプライマリーカルチャーの両方において当てはまる。これらの結果は卵巣がん患者にメトホルミンを使用する理論的根拠となる。
◎ メトホルミンの抗がん作用については以下のサイトで解説しています。
http://www.1ginzaclinic.com/metfomin/metformin.html
【原文】
Gynecol
Oncol. 2012 Nov;127(2):390-7.
Metformin targets
ovarian cancer stem cells in vitro and in vivo.
Shank JJ, Yang K, Ghannam
J, Cabrera
L, Johnston
CJ, Reynolds
RK, Buckanovich
RJ.
Source
Division of
Gynecologic Oncology, Department of Obstetrics and Gynecology, University of
Michigan, Ann Arbor, MI, USA.
Abstract
PURPOSE:
Studies in
non-gynecologic tumors indicate that metformin inhibits growth of cancer stem
cells (CSC). Diabetic patients with ovarian cancer who are taking metformin
have better outcomes than those not taking metformin. The purpose of this study
was to directly address the impact of metformin on ovarian CSC.
METHODS:
The impact of
metformin on ovarian cancer cell line growth and viability was assessed with
trypan blue staining. Aldehyde dehydrogenase (ALDH) expressing CSC were
quantified using FACS®. Tumor sphere assays were performed to determine the
impact of metformin on cell line and primary human ovarian tumor CSC growth in
vitro. In vivo therapeutic efficacy and the anti-CSC effects of metformin were
confirmed using both tumor cell lines and ALDH(+) CSC tumor xenografts.
RESULTS:
Metformin
significantly restricted the growth of ovarian cancer cell lines in vitro. This
effect was additive with cisplatin. FACS analysis confirmed that metformin
reduced ALDH(+) ovarian CSC. Consistent with this, metformin also inhibited the
formation of CSC tumor spheres from both cell lines and patient tumors. In
vivo, metformin significantly increased the ability of cisplatin to restrict
whole tumor cell line xenografts. In addition, metformin significantly
restricted the growth of ALDH(+) CSC xenografts. This was associated with a
decrease in ALDH(+) CSC, cellular proliferation, and angiogenesis.
CONCLUSIONS:
Metformin can restrict
the growth and proliferation of ovarian cancer stem cells in vitro and in vivo.
This was true in cell lines and in primary human CSC isolates. These results
provide a rationale for using metformin to treat ovarian cancer patients.
ジインドリルメタンは卵巣がんに対するシスプラチンの抗腫瘍効果を増強する。
ジインドリルメタンは卵巣がんに対するシスプラチンの抗腫瘍効果を増強する。
ジインドルルメタンは転写因子のSTAT3(signal transducer and activator of
transcription 3)に作用して、マウスの動物実験モデルで卵巣がんの増殖を抑制し、シスプラチンの抗腫瘍効果を増強する。BMC Med. 2012 Jan 26;10:9.
【要旨】
研究の背景:Signal transducer and activator of
transcription 3 (STAT3:シグナル伝達兼転写活性化因子3)は卵巣がんの多くにおいて活性化されており、卵巣がんのシスプラチンに対する抵抗性獲得に関与している。
我々は、以前の研究において、ジインドリルメタンが卵巣がん細胞の増殖を阻害することを報告している。しかし、ジインドリルメタンの増殖抑制作用の作用機序については明らかにされていない。本研究では、ジインドリルメタンの作用機序を検討した。
実験方法:ヒト卵巣がん細胞株6種類を用いた培養細胞の実験系と、マウスに卵巣がん細胞を移植した動物実験モデルを用い、ジインドリルメタン単独の効果とシスプラチンとの併用効果について検討した。
結果:ジインドリルメタンは培養細胞の実験系で、6種類のヒト卵巣がん細胞全てに対してアポトーシス(細胞死)を誘導した。STAT3のTyr-705(チロシン705)とSer-727(セリン727)におけるリン酸化は、ジインドリルメタンによって用量依存的に抑制された。
さらに、ジインドリルメタンはSTAT3の核内への移行とDNA結合と転写活性を阻害した。インターロイキン-6によって誘導されるTyr-705におけるSTAT3のリン酸化もジインドリルメタンによって顕著に阻害された。
遺伝子導入によってSTAT3を過剰発現させると、ジインドリルメタンによって誘導されるアポトーシスは阻止された。さらに、卵巣がん細胞および卵巣がん組織におけるインターロイキン-6の発現量はジインドリルメタンによって減少した。
ジインドリルメタンは低酸素誘導性因子1α(HIF-1α)と血管内皮細胞増殖因子の発現を抑制してがん細胞の浸潤と血管新生を阻害した。
さらに重要なことは、ヒト卵巣がん細胞SKOV-3細胞におけるシスプラチンの作用をSTAT3を介する機序で増強した。
1日に3mgのジインドリルメタンの経口投与とシスプラチンの投与は移植腫瘍の増殖を著明に抑制した。腫瘍組織におけるアポトーシスの増加と、STAT3活性の抑制が認められた。
結論:以上の実験結果より、ジインドリルメタン単独あるいは抗がん剤との併用の有用性について卵巣がんの臨床例を対象に検討する価値がある。
【訳者注】
STAT3は、STAT (Signal Tranducer and Activator of Transcription:シグナル伝達兼転写活性化因子) ファミリーに属する蛋白質で、その名の通り、シグナル伝達と遺伝子転写活性化の両方において働きます。STAT3は非活性化状態においては細胞質に存在しますが、Janusキナーゼ(JAK)が活性化されることによってリン酸化を受け、核内へ移行して目的遺伝子を活性化する転写因子として機能します。
IL-6ファミリーのサイトカインあるいはEGF等の成長因子がそれらの受容体に結合することによりJanusキナーゼ(JAK)が活性化されると、活性化されたJAKがSTAT3のチロシン705をリン酸化します。
チロシン705がリン酸化されたSTAT3二分子のSH2ドメインがそれぞれ他方の分子のリン酸化チロシンと相互作用することにより二量体を形成して核内に移行し、核内に移行したSTAT3二量体は標的となるDNAに結合する事で転写を活性化します。これをJAK-STAT経路と言います。STAT3は種々の腫瘍に恒常的に発現しておりますが、STAT3の機能を阻害するとアポトーシスが誘導されることから、STAT3阻害剤は新たな抗がん剤のターゲットとして着目されています。
この論文では、ジインドリルメタンは卵巣がんに対するシスプラチンの効果を増強し、その機序としてSTAT3の活性化を抑制する効果を示唆しています。
ジインドリルメタンに関しては、Akt/NF-κBシグナル伝達系を阻害する作用によって、がん細胞の細胞死(アポトーシス)を誘導する作用や抗がん剤に対する感受性(抗がん剤が効きやすくなること)を高める効果が報告されています。
例えば、乳がん細胞に対するタキソールの効果、前立腺がん細胞の対するタキソテールの効果、膵臓がんに対する抗がん剤(シスプラチン、ジェムシタビン、オキサリプラチン)やタルセバ(erlotinib)の効果を高めることが報告されています。
さらに、NF-κBの活性を阻害することによって、NF-κBによって調節を受け、血管新生やがん細胞の浸潤や転移に関与しているVEGFやIL-8やMMP-9やuPAなどの遺伝子発現を抑え、がん細胞の増殖や転移を抑える効果も報告されています。
様々な機序によって抗がん剤感受性を高める効果が報告されていますので、ジインドリルメタンは抗がん剤治療と併用するサプリメントとして極めて有用だと言えます。
ジインドリルメタンのサプリメントについてはこちらへ;
原文:
BMC Med. 2012 Jan 26;10:9.
Diindolylmethane suppresses ovarian
cancer growth and potentiates the effect of cisplatin in tumor mouse model by
targeting signal transducer and activator of transcription 3 (STAT3).
Source
Department of Biomedical Sciences
and Cancer Biology Center, Texas Tech University Health Sciences Center,
Amarillo, TX 79106, USA.
Abstract
BACKGROUND:
Signal transducer and activator of
transcription 3 (STAT3) is activated in majority of ovarian tumors and confers
resistance to cisplatin treatment in patients with ovarian cancer. We have
reported previously that diindolylmethane (DIM) inhibits the growth of ovarian
cancer cells. However, to date the exact mechanism by which DIM induces growth
suppressive effects has not been clear. In this report the mode of action of
DIM is investigated.
METHODS:
Six human ovarian cancer cell lines
and an ovarian tumor xenograft animal model were used to study the effect of
diindolylmethane alone or in combination with cisplatin.
RESULTS:
Diindolylmethane treatment induced
apoptosis in all six ovarian cancer cell lines. Phosphorylation of STAT3 at
Tyr-705 and Ser-727 was reduced by DIM in a concentration-dependent manner. In
addition, diindolylmethane treatment inhibited nuclear translocation, DNA
binding, and transcriptional activity of STAT3. Interleukin (IL)-6-induced
phosphorylation of STAT3 at Tyr-705 was significantly blocked by DIM.
Overexpression of STAT3 by gene transfection blocked DIM-induced apoptosis. In
addition, DIM treatment reduced the levels of IL-6 in ovarian cancer cells and
in the tumors. DIM treatment also inhibited cell invasion and angiogenesis by
suppressing hypoxia-inducible factor 1α (HIF-1α) and vascular epithelial growth
factor (VEGF). Importantly, diindolylmethane treatment potentiated the effects
of cisplatin in SKOV-3 cells by targeting STAT3. Oral administration of 3 mg
diindolylmethane per day and subsequent administration of cisplatin
substantially inhibited in vivo tumor growth. Western blotting analysis of
tumor lysates indicated increased apoptosis and reduced STAT3 activation.
CONCLUSIONS:
These findings provide a rationale
for further clinical investigation of DIM alone or in combination for
chemoprevention and/or chemotherapy of ovarian cancer.