5-アミノレブリン酸(5-ALA)の抗がん作用
◉ 5-アミノレブリン酸はミトコンドリアの機能を活性化する
一般的に、ミトコンドリア機能を活性化する物質は、エネルギー(ATP)産生を増やすので正常細胞の生理機能を高めます。 しかし、がん細胞ではミトコンドリアを活性化すると活性酸素の産生が増加し、細胞の酸化傷害によって増殖抑制や細胞死が誘導されます。
体の老化に伴って体内の細胞のミトコンドリア機能が低下し、これが心臓や骨格筋や神経系やその他の臓器の機能低下の主な原因になっています。これらの臓器ではミトコンドリアで酸素呼吸(酸化的リン酸化)によってエネルギー(ATP)を産生しています。体の老化に伴う生理機能の低下を予防するには、ミトコンドリアの量と機能を維持することが重要です。ミトコンドリアの量と機能を高めることができれば、体を若返らせることができます。5-アミノレブリン酸 (5-aminolevulinic acid:5-ALA) は、炭素数5で分子量131の動物および植物のミトコンドリアによって生合成される天然のアミノ酸です。5-アミノレブリン酸はミトコンドリアの中でアミノ酸の一種のグリシンと、クエン酸回路(TCA回路)で生成されるスクシニルCoAという2つの物質から作られます。
5-アミノレブリン酸はミトコンドリアを活性化する作用があり、抗老化作用を発揮するサプリメントとして人気があります。しかし、がん細胞に対してはミトコンドリアにおける活性酸素の産生を高めて酸化傷害を増強する作用が報告されています。つまり、「5-アミノレブリン酸は健康寿命を延ばし、がん細胞を死滅する」サプリメントと言えます。(図)
図:5-アミノレブリン酸はグリシンとスクシニルCoAからミトコンドリアで合成され、ミトコンドリア機能を活性化する作用がある。ミトコンドリア機能を高め、糖尿病や肥満など代謝性疾患を改善し、老化性疾患の進行を抑制し、健康寿命を延ばす抗老化作用を示す。一方、がん細胞に対しては、酸化ストレスを高め、がん細胞の増殖抑制とフェロトーシス誘導による抗がん作用を発揮する。
◉ 5-アミノレブリン酸はヘムの前駆物質
ミトコンドリアの中でグリシンとスクシニルCoAから生成された5-アミノレブリン酸は一度ミトコンドリアの外に出て行きます。細胞質内で何種類かのポルフィリンという物質に変化し、再びミトコンドリアに戻ってきます。そして、最終的にプロトポルフィリンIXに変わります。このプロトポルフィリンIXに鉄がくっついてできたのがヘムという物質です。(図)
図:ミトコンドリアの中でグリシンとスクシニルCoAから合成された5-アミノレブリン酸は、ミトコンドリアの外に出て、細胞内で何種類かのポルフィリンに変化し、コプロポリフィリノーゲンになって再びミトコンドリアに取り込まれ、最終的にプロトポルフィリンIXに変わる。このプロトポルフィリンに鉄が結合してヘムという物質が作られる。
動物細胞では、8分子の5-アミノレブリン酸がポルフィリン環を形成して、中心に2価鉄が配位されてヘムになります。植物細胞ではプロトポルフィリンIXはマグネシウムと結合してクロロフィル(葉緑素)になります。クロロフィルは植物が光合成をする上でなくてはならない物質です。
ポルフィリンは、鉄・銅・亜鉛などの金属イオンと結合してヘムやクロロフィルなどを形成します。これらの化合物は、生物体内で酸素の運搬(ヘモグロビンとミオグロビン)、電子の移動(シトクロム)、光合成(クロロフィル)など生命維持に必要な多くの化学反応に関与しています。(図)
図:5-アミノレブリン酸はプロトポルフィリンIXになり、鉄(Fe)が結合してヘムになる。ヘムはヘモグロビンやシトクロム、カタラーゼ、P450など多くのヘムタンパク質を構成し、細胞内で重要な働きを担っている。植物では、プロトポルフィリンIXにマグネシウム(Mg)が配位されるとクロロフィル(葉緑素)となり、光合成に寄与する。
◉ 5-アミノレブリン酸は光線力学療法に使われる
5-アミノレブリン酸(5-ALA)はミトコンドリア機能を高める効果があり、抗老化、食後高血糖対策、脂質減少などの目的でサプリメントとして市販されています。
5-ALAは抗老化のサプリメントとして使用される以外に、がんの診断や治療においても使用されています。5-ALAはプロトポルフィリンIX (PpIX) という光感受性物質の前駆体として体内で利用されます。5-ALAを体内に投与すると、がん細胞内に多く取り込まれPpIXに変換されます。 プロトポルフィリンIX (PpIX)は青色可視光(375-445nm)で励起すると、赤色蛍光(600-740nm)を発光します。このように5-ALAを光感受性物質として用いてがん細胞を赤色に蛍光発光させるがん診断法を光線力学診断と言います。
また、PpIXは特定の波長の光(赤または近赤外光)を照射すると活性酸素種を生成し、がん細胞を破壊します。がん細胞に特異的に過剰集積したPpⅨに、赤色可視光(600-740nm)や緑色可視光(480-580nm)で励起し、がん細胞内で活性酸素を発生させて酸化傷害を与える治療法を光線力学療法と言います。5-ALAを使った光線力学療法は、特に脳腫瘍、皮膚がん、頭頸部がん、膀胱がんなどの治療に利用されています。
5-ALAはがん細胞により効率的に取り込まれ、健康な細胞にはほとんど影響を及ぼさないため、治療の副作用を最小限に抑えることができます。がん細胞は 5-ALAを多く取り込み、ミトコンドリア内でプロトポルフィリンⅨ(PpⅨ)に生合成されます。がん細胞ではPpⅨが過剰に集積します。これは正常細胞に比べてがん細胞が5-ALAをより効率的に取り込み、PpIXに変換する能力が高いためです。
マウスの乳がん細胞に対する 5-アミノレブリン酸 (5-ALA) を使った光線力学療法の細胞毒性に対するアルテスネイトとアルテメーターの影響を検討した実験が報告されています。アルテスネイトやアルテメーターが5-ALAを使った光線力学療法の効果を増強する結果が報告されています。これらの結果は、5-アミノレブリン酸と鉄はアルテスネイトの抗腫瘍効果を増強する可能性を示唆しています。 (Antimalarial Drugs Enhance the Cytotoxicity of 5-Aminolevulinic Acid-Based Photodynamic Therapy against the Mammary Tumor Cells of Mice In Vitro.Molecules. 2019 Oct 29; 24(21): 3891.)
◉ フリーの鉄よりヘムの方がアルテスネイトの抗がん作用を増強する
フリーの鉄よりヘムの方がアルテスネイトの抗がん作用を増強することが報告されています。
Heme activates artemisinin more efficiently than hemin, inorganic iron, or hemoglobin. (ヘムはヘミン、無機鉄、ヘモグロビンよりも効率的にアルテミシニンを活性化する)Bioorg Med Chem. 2008 Aug 15;16(16):7853-61.
アルテミシニン誘導体は、酸化還元反応を通じて抗マラリア活性を発揮すると考えられます。ヘム、無機鉄、ヘモグロビンは全て、アルテミシニンを活性化する重要な分子として関与していると考えられています。そこで、アルテミシニンと様々な酸化還元形態のヘム、第一鉄、脱酸素化ヘモグロビンおよび酸素化ヘモグロビンとの反応を分析しました。
その結果、ヘムは他の鉄含有分子よりもはるかに効率的にアルテミシニンと反応し、活性酸素の産生を高めました。ヒトがん細胞株のHeLa細胞と、HeLa細胞のミトコンドリアDNAを欠損させた細胞(HeLaρ0)の2種類のがん細胞株を用いてアルテスネイトの抗腫瘍活性を比較した実験があります。
The Role of Heme and the Mitochondrion in the Chemical and Molecular Mechanisms of Mammalian Cell Death Induced by the Artemisinin Antimalarials.(抗マラリア薬アルテミシニンによって誘導される哺乳類細胞の細胞死の化学的・分子生物学的メカニズムにおけるヘムとミトコンドリアの役割)J Biol Chem. 2011 Jan 14; 286(2): 987–996.
ミトコンドリアは固有のDNA(ミトコンドリアDNA)を持ち、このミトコンドリアDNAには呼吸酵素複合体IからVを構成する85種類のサブユニットのうち13種類のタンパク質を作成する遺伝子が存在します。従って、ミトコンドリアDNAを欠失させるとミトコンドリアでの酸化的リン酸化によるATP産生が起こらなくなります。 ミトコンドリアDNAが欠損しても、酸化的リン酸化以外のミトコンドリアの機能は維持できます。がん細胞はミトコンドリアでの酸素を使ったATP産生を行わなくても、解糖系でATPを賄うことができるので、酸化的リン酸化が障害されても生存はできます。
アルテスネイト存在下で48時間培養した場合の50%細胞致死量はHeLa細胞が6±3μMで、ミトコンドリアDNAを欠損したHeLaρ0細胞では34±5μMでした。つまり、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が低下しているとアルテスネイトの殺細胞作用が減弱するという結果です。
これは、ミトコンドリアの酸化的リン酸化を亢進するとアルテスネイトの抗がん作用を増強できることを示しています。
また、アルテスネイトの殺細胞作用は、細胞のヘムの合成を亢進すると増強し、ヘムの合成を阻害すると減弱することが示されています。つまり、アルテスネイトの殺細胞作用の活性化にはヘムの存在が重要であることを示しています。
以上の実験結果は、ミトコンドリアの酸化的リン酸化の活性化とヘム合成の亢進はアルテスネイトの殺細胞作用を増強できることを示しています。これは、ミトコンドリアの酸化的リン酸化を亢進する5-アミノレブリン酸とジクロロ酢酸ナトリウムがアルテスネイトの抗腫瘍効果を増強する理由になります。
◉ 5-アミノレブリン酸はがん細胞を酸化傷害で死滅する
前述のように5-アミノレブリン酸はミトコンドリアを活性化して抗老化作用や美容効果を発揮するので、アンチエイジング(抗老化)のサプリメントとして人気があります。さらに、5-アミノレブリン酸はがん治療薬としても注目されています。
がん細胞では、ミトコンドリアの異常によって酸素を使ったエネルギー(ATP)産生の過程で活性酸素が発生しやすいという特徴があります。活性酸素の産生が増えると、がん細胞は酸化傷害によってダメージを受け、増殖が低下し、細胞死が誘導されます。
マウスに食道扁平上皮がんを移植する動物実験のモデルで、マウスに5-アミノレブリン酸(5-ALA)を投与するとがん細胞にフェロトーシスを誘導して抗腫瘍効果を発揮することが、鳥取大学医学部外科部門消化器・小児外科の研究グループから報告されています。
Antitumor Effect of 5-Aminolevulinic Acid Through Ferroptosis in Esophageal Squamous Cell Carcinoma.(食道扁平上皮がんにおけるフェロトーシスを介した5-アミノレブリン酸の抗腫瘍効果)Ann Surg Oncol. 2021 Jul;28(7):3996-4006.
体外から投与された5-ALAは、ヘム生合成経路を介してミトコンドリア内で酵素的にプロトポルフィリンIX(PpIX)に変換されます。蓄積したPpIXが活性酸素の産生を高めて抗腫瘍効果を発揮することが知られています。5-ALAはがん細胞に多く取り込まれる性質があるので、がん細胞に選択的に活性酸素の産生を高めて、がん細胞を死滅することができるという報告です。
5-ALAが前立腺がん細胞におけるミトコンドリアの活性酸素種の産生を促進することにより、放射線抵抗性を低下させることが奈良県立医科大学泌尿器科の研究グループから報告されています。
5-Aminolevulinic acid overcomes hypoxia-induced radiation resistance by enhancing mitochondrial reactive oxygen species production in prostate cancer cells.(5-アミノレブリン酸は、前立腺がん細胞におけるミトコンドリアの活性酸素種の生成を促進することにより、低酸素誘発性放射線抵抗性を克服する)Br J Cancer. 2022 Jul;127(2):350-363.
前述のように、5-アミノレブリン酸(5-ALA)は、ミトコンドリアで生合成されるプロトポルフィリン IX(PpIX)の前駆体です。蓄積された PpIX が光によって励起されると活性酸素種が生成されます。この研究では、光によって励起されなくても、5-ALA がその代謝物である PpIX を介して活性酸素種を生成することで、前立腺がん細胞の放射線療法に対する感受性を高めることを報告しています。
5-ALAは、放射線照射直後にミトコンドリア内の活性酸素種産生を増強し、ミトコンドリアの機能障害を引き起こして細胞死を増強しました。この結果は、5-ALA と放射線療法の併用療法が 前立腺がんに対する放射線療法の抗がん効果を改善するための新しい戦略であることを示唆しています。
◉ 5-アミノレブリン酸+クエン酸第一鉄Naは健康寿命を延ばし、がん細胞を死滅する
5-アミノレブリン酸+クエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせが、老化性疾患を軽減する可能性が指摘されています。例えば、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムは健全な筋肉とミトコンドリアを維持することで2型糖尿病の症状を改善するという実験結果が報告されています。
Sodium ferrous citrate and 5-aminolevulinic acid improve type 2 diabetes by maintaining muscle and mitochondrial health.(クエン酸第一鉄ナトリウムと5-アミノレブリン酸は、筋肉とミトコンドリアの健康を維持することで2型糖尿病を改善する)Obesity (Silver Spring). 2023 Apr;31(4):1038-1049.
この研究では、生後6週齢の雄 C57BL/6J マウスに、通常食、高脂肪食、またはクエン酸第一鉄ナトリウムと5-アミノレブリン酸(5-ALA)を添加した高脂肪食を 15 週間与えました。高脂肪食を与えたマウスに5-ALA+クエン酸第一鉄ナトリウムを同時に補給すると、筋肉量の減少が防止され、筋力が向上し、肥満とインスリン抵抗性が減少しました。
5-ALA+クエン酸第一鉄ナトリウムは、ミトコンドリア形態の異常を防止し、グルコース取り込みやミトコンドリアの酸化的リン酸化関連遺伝子の発現など、骨格筋細胞の遺伝子発現に対する高脂肪食の影響を正常に戻しました。さらに、5-ALA+クエン酸第一鉄ナトリウムはミトコンドリアDNAのコピー数の減少を防ぎました。
つまり、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの補給が骨格筋とミトコンドリアの健康状態の改善を介して2型糖尿病の予防効果を発揮することを示唆しています。5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムはショウジョウバエの筋肉老化を改善し、健康寿命を延長することが報告されています。
5-Aminolevulinic acid and sodium ferrous citrate ameliorate muscle aging and extend healthspan in Drosophila.(5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムはショウジョウバエの筋肉老化を改善し、健康寿命を延長する)FEBS Open Bio. 2022 Jan;12(1):295-305.
ミトコンドリアの機能低下は老化と関係しています。5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせはミトコンドリア機能を改善します。この研究では、ショウジョウバエの成体に、さまざまな濃度の5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムを含むコーンミール餌を与え、運動機能、寿命、筋肉構造、加齢に伴うミトコンドリア機能の変化が分析されました。
その結果、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムを与えると加齢に伴う運動機能の低下が軽減され、生物の寿命が延びること示されました。さらに、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの投与は高齢動物の筋肉構造を保存し、ミトコンドリア膜電位を維持しました。
このように、5-アミノレブリン酸+クエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせが、ミトコンドリア機能を高め、糖尿病や肥満など代謝性疾患を改善し、健康寿命を延ばす可能性が数多くの実験で報告されています。(図)
図:5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムをサプリメントとして補充すると、ミトコンドリア機能を高め、糖尿病や肥満など代謝性疾患を改善し、老化性疾患の進行を抑制し、健康寿命を延ばす効果が示唆されている。
5-アミノレブリン酸+クエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせには抗がん作用も報告されています。
5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの併用投与は、シトクロムcオキシダーゼ活性の活性化を通じて活性酸素種生成を促進し、胃がん細胞の細胞生存率を低下させることが報告されています。5-aminolevulinic acid and sodium ferrous citrate decreased cell viability of gastric cancer cells by enhanced ROS generation through improving COX activity.(5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムは、シトクロムcオキシダーゼ活性の活性化を通じて活性酸素種生成を促進し、胃がん細胞の細胞生存率を低下させる)Photodiagnosis Photodyn Ther. 2022 Dec:40:103055.
5-アミノレブリン酸(5-ALA)は光線力学療法に使用されます。この光線力学療法では、5-ALAから変換されたプロトポルフィリンIXが活性酸素種を生成してがん細胞を死滅させます。
5-ALAは、活性酸素種を生成する可能性のあるシトクロムcオキシダーゼの活性を促進することが報告されています。また、クエン酸第一鉄ナトリウムがシトクロムcオキシダーゼ活性を高めることが報告されています。 そこでこの研究では、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせが、シトクロムcオキシダーゼ活性の活性化を通じて活性酸素種生成を促進し、胃がん細胞の細胞生存率を低下させるかどうかを検討しています。
その結果、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの治療により、細胞内ヘムとヘムタンパク質が増加することが示されました。さらに、シトクロムcオキシダーゼ活性が促進され、細胞内活性酸素種の生成が増え、最終的にヒト胃がん細胞株 MKN45 の細胞生存率が低下しました。
つまり、5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの併用投与が、がん細胞内で活性酸素の産生を増やして、死滅することができるということです。
5-アミノレブリン酸+クエン酸第一鉄ナトリウムの組み合わせはミトコンドリアの働きを良くして正常細胞の働きを良くします。しかし、ミトコンドリアの働きを高めることは、がん細胞にとっては活性酸素によるダメージを増やし、細胞死を引き起こします。 ミトコンドリアの活性化における正常細胞とがん細胞の反応の違いによって、正常細胞ではミトコンドリアでの酸素呼吸を促進すると元気になり、がん細胞では活性酸素の産生が増えて死滅するということです。(図)
図:5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムをサプリメントとして補充すると、ミトコンドリア機能を高め、糖尿病や肥満など代謝性疾患を改善し、老化性疾患の進行を抑制し、健康寿命を延ばす。一方、がん細胞に対しては、酸化ストレスを高め、がん細胞の増殖抑制とフェロトーシス誘導による抗がん作用を発揮する。
◉ 5-アミノレブリン酸はヘムの合成を亢進してアルテスネイトの抗腫瘍効果を増強する
ヘムの合成を促進する方法として5-アミノレブリン酸があります。以下のような報告があります。
Mechanistic Investigation of the Specific Anticancer Property of Artemisinin and Its Combination with Aminolevulinic Acid for Enhanced Anticolorectal Cancer Activity.(アルテミシニンの特異的抗がん特性とアミノレブリン酸との併用による抗結腸がん活性の増強に関するメカニズムの検討。)ACS Cent Sci. 2017 Jul 26;3(7):743-750.
アルテミシニンの殺細胞作用が正常細胞に比べてがん細胞に強く発現するのは、がん細胞ではヘムの合成が亢進していることを指摘しています。 そこで、ヘム合成の前駆物質の5-アミノレブリン酸(aminolevulinic acid)を添加してがん細胞のヘム合成を亢進するとアルテミシンの抗腫瘍活性が亢進することを示しています。
マウスの移植腫瘍を用いた実験でも、アルテミシン単独よりもアルテミシン+アミノレブリン酸の併用の方が高くなることを示しています。つまり、アルテミシンとアミノレブリン酸の併用によるがん治療の可能性を示唆しています。
アルテスネイトなどのアルテミシニン誘導体の殺細胞作用は正常細胞に比べてがん細胞に強く発現します。その理由として、がん細胞ではヘムの合成が亢進していることが指摘されています。
実際に、ヘム合成の前駆物質の5-アミノレブリン酸を添加してがん細胞のヘム合成を亢進するとアルテミシニンの抗腫瘍活性が亢進することが示されています。アルテスネイトは活性酸素を発生させてがん細胞を死滅します。鉄(クエン酸第一鉄ナトリウム)と5-アミノレブリン酸を併用すると活性酸素の産生量を増やし、アルテスネイトの抗腫瘍効果を高めることができます。つまり、鉄剤(クエン酸第一鉄ナトリウムなど)と5-アミノレブリン酸をがん細胞に取り込ませてからアルテスネイトを服用すると、アルテスネイトによるフェロトーシス誘導を促進できます。(図)
図:トランスフェリンは3価の鉄イオン(Fe3+)を運搬し(①)、細胞膜に存在するトランスフェリン受容体(TFR)に結合すると、この複合体は細胞内に取り込まれる(②)。エンドソーム内の酸性の環境では、鉄イオンはトランスフェリンから離れ、3価の鉄イオン(Fe3+)は2価の鉄イオン(Fe2+)に還元される(③)。2価の鉄イオンは細胞質に移行して鉄プールに入り、細胞内の様々な目的で使用される(④)。アルテスネイト(⑤)は細胞質の2価鉄イオンと反応して活性酸素を発生させ(⑥)、過酸化脂質の蓄積を引き起こし(⑦)、フェロトーシスやアポトーシスによる細胞死を誘導する(⑧)。5-アミノレブリン酸(⑨)はミトコンドリアでのヘム合成を促進し(⑩)、ヘムはアルテスネイトと反応して活性酸素を発生する(⑪)。アルテスネイトと5-アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウム(⑫)などの鉄剤を併用すると、がん細胞に特異的に細胞死を誘導できる。
◉ がん細胞は乳酸産生が増えている
5-アミノレブリン酸(5-ALA)は乳酸脱水素酵素Aの活性を阻害してがん細胞の酸化ストレスをさらに増強する作用が明らかになっています。まず、乳酸脱水素酵素Aの阻害が酸化ストレスを高める理由を説明します。
がん細胞の代謝の特徴は、酸素が十分にあってもミトコンドリアでの酸化的リン酸化によるエネルギー(ATP)産生が抑制され、酸素を使わないグルコースの分解(解糖)が亢進していることです。そのため、グルコースの取込みが増え、乳酸の産生が増えています。これをワールブルグ効果あるいは好気的解糖と言います。
解糖系でできたピルビン酸は、嫌気的条件(酸素が無い状態)では乳酸に変換されます。解糖系でグルコースからピルビン酸まで分解したあと、酸素があればTCA回路(クエン酸回路)と電子伝達系による酸化的リン酸化によってATPを生成しますが、酸素が無い場合はピルビン酸からさらに乳酸に変換されます。ピルビン酸を乳酸に変換する酵素が乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase; LDH)です。
がん細胞の場合は、酸素が十分にあってもミトコンドリアでの酸化的リン酸化を抑制しているので乳酸を生成する方に行きます。なぜピルビン酸で止まらないで乳酸に変換されるかというと、その理由は、解糖系で還元されたNADH(還元型ニコチンアミドジヌクレオチド)を酸化型のNAD+に戻すためです。NAD+が枯渇すると解糖系が進行しなくなります。NAD+が枯渇しない限り無酸素の条件でエネルギー(ATP)を産生できます。
がん細胞は酸素がなくても生存し増殖できまるのは、乳酸発酵でNAD+を再生するからです。 解糖系でのグルコースからピルビン酸への代謝で、1分子のグルコースから2分子のATPを産生できます。乳酸発酵によって酸化型NAD(NAD+)を再生することによって、がん細胞は無酸素条件下で生きていけるのです。その代わりに乳酸産生が増えます。(図)
図:解糖系では1分子のグルコースから2分子のピルビン酸、2分子のATP、2分子のNADH + H+が作られる。乳酸発酵では、NADH + H+を還元剤として用いてピルビン酸を還元して乳酸にする。この乳酸発酵によってNAD+を再生することによって酸素を使わないATP産生(解糖)が続けられる。その結果、がん細胞は乳酸産生が増えている。
◉ がん細胞では乳酸脱水素酵素Aの発現と活性が亢進している
乳酸脱水素酵素(LDH)にはLDH-AとLDH-Bの2つのサブタイプがあります。LDH-Aは骨格筋タイプあるいはLDH-Mとも言い、ピルビン酸から乳酸の変換に適しています。骨格筋では通常は有酸素でミトコンドリアでの代謝が中心ですが、短距離ダッシュのような無酸素での運動では骨格筋で嫌気的解糖によるエネルギー産生が起こるのでLDH-Aが必要になります。
一方、LDH-Bは心臓タイプあるいはLDH-Hとも言い、乳酸からピルビン酸の変換に適しています。心臓では血中の乳酸もエネルギー源に利用するので、乳酸からピルビン酸に変換するLDH-Bが必要になります。(図)。
図:乳酸脱水素酵素(LDH)はピルビン酸から乳酸への変換を促進するLDH-Aと、乳酸からピルビン酸への変換を促進するLDH-Bの2つのタイプがある。。
LDH-Aはがん治療のターゲットになります。それは好気的解糖(ワールブルグ効果)が亢進しているがん細胞ではLDH-Aの発現が亢進しているのに対して、正常細胞では骨格筋にしか発現していないためです。LDH-Aは骨格筋で嫌気的解糖を行うときしか必要ないので、短距離ダッシュのように無酸素の運動をしなければ、LDH-Aは正常細胞では無くても構わないと言えます。実際にLDH-Aの遺伝子が欠損していても、大した異常は起こらないことが報告されています。
多くのがん細胞でLDH-Aの発現亢進が認められています。LDH-Aは低酸素誘導因子-1(HIF-1)によって発現が誘導されます。がん細胞ではHIF-1の発現が亢進しており、LDH-Aの発現が亢進しています。
◉ 乳酸脱水素酵素Aの阻害は酸化ストレスを高める
培養したがん細胞を使った実験で乳酸脱水素酵素Aの活性を阻害すると、細胞内ATP量が減少し、酸化的ストレスが増大し、細胞死が誘導されることが示されました。がんを移植したマウスに乳酸脱水素酵素Aの活性を阻害する物質(FA11)を投与すると、移植したヒト悪性リンパ腫や膵臓がんの増殖が抑制されました。これらの結果から、乳酸脱水素酵素Aの活性を阻害すると、がん細胞を死滅できることが明らかになりました。
正常細胞では低酸素状態になると低酸素誘導因子-1(HIF-1)が活性化され、乳酸脱水素酵素Aの発現が誘導されて、嫌気的解糖系が亢進することになります。がん細胞では、低酸素がなくてもHIF-1の発現と活性が亢進しており、HIF-1の転写活性によって解糖系酵素のヘキソキナーゼ、乳酸脱水素酵素A、ピルビン酸脱水素酵素キナーゼの活性が亢進し、解糖系でのグルコース代謝が亢進し、ミトコンドリアでの酸素呼吸が抑制されています。これががん細胞の代謝の特徴です。 酸化ストレスはがん細胞の増殖や浸潤や転移を阻害します。したがって、LDH-Aの阻害は、解糖系を抑制し、酸化ストレスを高めて、がん細胞の増殖を抑えます。
図:酸化ストレスはがん細胞の負担になるので、がん細胞の増殖や浸潤・転移を抑制する(①)。抗酸化剤を摂取すると、がん細胞の酸化ストレスを軽減して増殖や転移を促進する(②)。がん細胞では解糖系が亢進し、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が抑制されており、これをワールブルグ効果という。このワールブルグ効果はがん細胞の酸化ストレスを軽減している(③)。LDHA(乳酸脱水素酵素A)とHIF-1(低酸素誘導因子-1)を阻害するとワールブルグ効果を抑制する(④)。ワールブルグ効果の抑制は、がん細胞の酸化ストレスを亢進するので、がん細胞の増殖や浸潤・転移が抑制される。
◉ 5-アミノレブリン酸は乳酸脱水素酵素Aを阻害する
5-アミノレブリン酸が乳酸脱水素酵素Aの活性を強力に阻害することが報告されています。多形神経膠芽腫細胞を使った実験で、5-アミノレブリン酸 (5-ALA) を添加すると解糖活性が急激に低下し、解糖によるアデノシン3リン酸 (ATP) 生成の減少が認められ、細胞死が誘導されました。これらの結果は、5-ALA が解糖の阻害剤であることを示唆しました。(PNAS 107(5):2037-2042, 2010)
5-ALA は確立された乳酸脱水素酵素 (LDH) 阻害剤であるオキサミン酸およびタルトロン酸と構造的に類似しており、コンピューターを使った解析により5-ALA はLDH の競合阻害剤であることが示されました。さらに、酵素アッセイおよび細胞溶解物アッセイによって、5-ALAがオキサミン酸およびタルトロン酸に匹敵する強力な LDH 阻害剤であることが確認されました。(Cancers (Basel). 2022 Aug; 14(16): 4003.)
乳酸脱水素酵素Aの阻害剤として確立している化合物としてオキサミン酸(oxamate)とタルトロン酸(tartronic acid)があります。この2つは乳酸脱水素酵素の基質のピルビン酸および乳酸と構造が類似しており、乳酸脱水素酵素の基質となり、拮抗阻害することによって乳酸脱水素酵素を阻害します。
5-アミノレブリン酸は乳酸脱水素酵素の基質にはなりませんが、オキサミン酸やタルトロン酸と構造が類似し、乳酸脱水素を阻害する活性があるという報告です。(図)
図:乳酸脱水素酵素Aはピルビン酸を乳酸に変換する。オキサミン酸とタルトロン酸はピルビン酸および乳酸と構造が類似しており、乳酸脱水素酵素の基質となり拮抗阻害する。5-アミノレブリン酸はオキサミン酸やタルトロン酸と構造が類似し、乳酸脱水素を阻害する活性がある。。
この研究では、5-アミノレブリン酸(5-ALA) が、オキサミン酸やタルトロン酸などの確立された乳酸脱水素酵素阻害剤に匹敵する効力を持っていることを明らかにしています。 5-アミノレブリン酸(5-ALA)はがん細胞に多く取り込まれることが明らかになっています。特に膠芽腫に多く取り込まれます。実際、5-ALA は 2017 年に米国食品医薬品局 (FDA) によってグレード III および IV の神経膠腫の悪性組織の可視化の補助剤として承認されました。現在、悪性神経膠腫や多形神経膠芽腫(グリオブラストーマ)などの脳腫瘍の切除を正確にガイドするために使用されています。
多形神経膠芽腫の蛍光ガイド下切除術のために患者に与えられる通常の用量は 20 mg/kg です。体重60kgで1200mgです。ただし、1回の投与です。がん細胞における乳酸脱水素酵素を阻害する目的では1日200mgから500mg程度を数週間摂取するという方法が現実的です。
さらに2-デオキシ-D-グルコースを体重1kg当たり40mgから60mg程度併用すると、がん細胞に特異的にエネルギー産生を阻害し、酸化ストレスを高めることができます。 5-アミノレブリン酸(5-ALA)は正常細胞のミトコンドリアを活性化するので抗老化のサプリメントとして利用されています。
がん細胞に対してはミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やし、フェロトーシスを促進します。鉄と5-ALAはがん細胞に多く取り込まれる性質があるため、アルテスネイトと鉄剤と5-ALAの組み合わせはがん細胞のフェロトーシス誘導を増強します。(下図)
図:5-アミノレブリン酸(①)とクエン酸第一鉄ナトリウム(②)をサプリメントとして補充すると、ミトコンドリア機能を高め(③)、糖尿病や肥満など代謝性疾患を改善し、老化性疾患の進行を抑制し、健康寿命を延ばす(④)。一方、がん細胞に対しては、酸化ストレスを高め、がん細胞の増殖抑制とフェロトーシス誘導による抗がん作用を発揮する(⑤)。さらに、5-アミノレブリン酸は乳酸脱水素酵素Aの活性を阻害する(⑥)。乳酸脱水素酵素Aの活性阻害はミトコンドリアでの酸素呼吸を増やし、がん細胞の酸化ストレスを亢進して増殖抑制とフェロトーシス誘導を促進する(⑦)。
◉ 5-アミノレブリン酸の処方について
鉄剤は「フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)」を用いています。1錠(50mg)が50円です。1日1錠を服用します。
5-アミノレブリン酸は厚労省(関東信越厚生局)から薬監証明を取得して中国のXintai Jiahe Biotech Co., Ltdから輸入して医薬品として処方しています。250mg, 30カプセル が6,000円(消費税込み)で処方しています。1日1カプセルを服用します。
アルテスネイト+5-アミノレブリン+フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)に関するご質問やお問い合わせは、メール(info@f-gtc.or.jp)か電話(03-5550-3552)でご連絡ください。