イミキモド(Imiquimod)の免疫増強作用

イミキモド(Imiquimod)は合成イミダゾキノリン(imidazoquinoline)で、樹状細胞やマクロファージなどに発現しているTLR7(Toll-like receptor 7)にリガンドとして直接結合し、シグナルを伝えることによって、I型インターフェロンを誘導し自然免疫を活性化します。 欧米では塗布薬(5% imiquimodクリーム)として販売され、基底細胞がんや尖圭コンジローマに対して使用され、さらに日光角化症、ボーエン病など表在性の皮膚悪性腫瘍でも有効性が認められています。

Imiquimod

イミキモドを5%含有するクリームが、250mg(イミキモドを12.5mg含有)単位で小袋(sachets)に入っています。欧米では処方箋薬の扱いのためネット上での個人輸入は困難です。そのため、銀座東京クリニックではインドのジェネリックを医師の個人輸入で入手して250mgを1000円で処方しています。このクリームを腫瘍の周囲の皮膚に塗布します。皮膚の樹状細胞を活性化すると体内の腫瘍に対しても抗腫瘍免疫が活性化されます。
ご希望の方はメール(info@f-gtc.or.jp)でお知らせ下さい。

【がん細胞に特異的な獲得免疫が始動するには自然免疫の活性化が必要】

免疫システムは病原体やがん細胞から生体を守る働きを担っています。この免疫システムは自然免疫獲得免疫に分けられます。
自然免疫は先天的に備わった免疫で、微生物などに特有の分子パターンを認識して異物を攻撃します。マクロファージや好中球には細菌などの病原体に共通した情報を認識できる受容体を細胞表面に持っていて、病原体を認識して貪食します。 さらにマクロファージはナチュラルキラー細胞を活性化します。 ナチュラルキラー(natural killer)細胞(略してNK細胞)は、ターゲットの細胞を殺すのにT細胞と異なり事前に感作させておく必要が無いことから、生まれつき(natural)の細胞傷害性細胞(killer cell)という意味で名付けられました。
感作」というのは、前もって抗原に対する認識能を高めておくことで、感作させておく必要がないというのは、初めて出あった細胞でも、直ちにその異常細胞を認識して攻撃できるということです。 ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、MHCクラスI分子が喪失した細胞(自己性を喪失した異常な細胞)を認識して攻撃します。 NK細胞の細胞質にはパーフォリンやグランザイムといった細胞傷害性のタンパク質をもち、これらを放出してターゲットの細胞を死滅させます。 がん細胞を見つけると直ちに攻撃するため、がんに対する第一次防衛機構として、特に発がん過程の初期段階でのがん細胞の排除において重要な役割を果たしています。
一方、獲得免疫は,後天的に外来異物の刺激に応じて形成される免疫です。高度な抗原特異性と免疫記憶を特徴とします。 マクロファージや樹状細胞が、がん細胞からがん抗原ペプチドと呼ばれる小さな蛋白質を捕足し、その情報がヘルパーT細胞に伝えられ、その情報に従って特定のがん抗原に対する免疫応答が引き起こされるのが獲得免疫です。 キラーT細胞は、がん抗原で活性化されて初めて細胞傷害活性を持つようになります。すなわち、細胞傷害活性を持たないナイーブキラーT細胞(抗原刺激を一度も受けたことがないキラーT細胞)が抗原提示細胞から抗原ペプチド(がん抗原)を提示され、その抗原とぴったり結合するキラーT細胞が活性化されて増殖し、がん細胞に対して特異的な細胞傷害活性を持つ細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)となり、がん細胞を攻撃するようになります。
細胞傷害性T細胞(CTL)は細胞傷害物質であるパーフォリン、 グランザイム, TNF(tumor necrosis factor)などを放出したり、ターゲット細胞のFasを刺激してアポトーシスに陥らせることでがん細胞やウイルス感染細胞を死滅させます。
細胞傷害性T細胞の一部はメモリーT細胞となって、異物に対する細胞傷害活性を持ったまま宿主内に記憶され、次に同じ異物(抗原)に暴露された場合に対応できるよう備えます。
「自然免疫」は、マクロファージや好中球などの食細胞が侵入した病原体やがん細胞を食べてしまうというシステムが基本になっています。 病原体を食べた食細胞は、TLR(トル様受容体)などのパターン認識受容体で、病原体や危険シグナルに共通するパターンを認識して活性化します。 一方、「獲得免疫」は「抗原」というターゲットに対して対応する免疫応答です。この獲得免疫は、自然免疫による病原体認識という段階を経なければ始動しないことが判っています。 その理由は、抗原特異的なT細胞が活性化するには、樹状細胞から抗原提示を受けなければならないのですが、樹状細胞は他の食細胞と同様にパターン認識受容体で病原体やがん細胞を認識して活性化する必要があるからです。

①活性化したマクロファージはナチュラルキラー細胞(NK細胞)を活性化する。②活性化されたマクロファージやNK細胞などががん細胞を攻撃してがん細胞の破壊が起こるとがん抗原が樹状細胞に取込まれる。抗原による感作の必要のないがん細胞に対する第一次防衛機構が「自然免疫」となる。④がん抗原を貪食した樹状細胞はがん抗原の情報をT細胞やB細胞に渡して活性化する。⑤がん抗原特異的な免疫応答によるがん細胞の攻撃が「獲得免疫」となる。

【獲得免疫の始動には樹状細胞の活性化が必要】

樹状細胞(Dendritic cell)は,細胞表面に突起構造を持っていることから名付けられ,高い運動性を有する免疫細胞の一種で,身体のあらゆる場所に存在しています。哺乳動物の免疫系では,最も強力な抗原提示細胞として機能しています。
末梢で病原体やがん細胞を食べて活性化した樹状細胞は最寄りのリンパ節に移動します。樹状細胞は取り込んだ細胞を細胞内で分解してペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)にし、これらのペプチドはMHCという分子と結合して細胞表面に提示されます。 樹状細胞は活性化する前も「MHC+ペプチド」が提示されていますが、活性化されると、樹状の突起をめいっぱいに出して表面積を広げ、できるだけ多くの抗原を提示しようとします。 樹状細胞が提示する抗原と反応するヘルパーT細胞(CD4+)キラーT細胞(CD8+)が活性化されて、リンパ球による抗原特異的な免疫応答が活性化されます。

①腫瘍由来因子が未成熟な樹状細胞を骨髄から動員する。②末梢組織からも未熟樹状細胞が腫瘍組織に集まってくる。③死滅したがん細胞から放出されたがん抗原は未熟樹状細胞に取り込まれ、活性化されて成熟樹状細胞に分化誘導される。④成熟樹状細胞はリンパ節に移動し、MHCクラスI及びクラスIIに結合したがん抗原をTCR(T細胞受容体)を介して、CD4+T細胞(ヘルパーT細胞)とCD8+T細胞(キラーT細胞)に提示する。⑤抗原提示をうけて活性化したキラーT細胞はがん抗原特異的な免疫学的攻撃を行う。

【トル様受容体が自然免疫を発動させる】

生体は「自己にない分子パターンを認識する」というメカニズムで細菌やウイルスや真菌などの病原体を認識して、自然免疫を発動させます。 また、細胞傷害に伴って放出される細胞内分子を「危険シグナル(danger signals)」として認識し、自然免疫や炎症を発動させます。
このような自然免疫の発動で重要な役割を果たしているのがトル様受容体(Toll-like Receptor: TLR)です。 トル様受容体(TLR)は動物の細胞表面やエンドソームにある受容体タンパク質です。
TLRは、細菌やウイルスや原虫や真菌などに共通して保存されている病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns)を認識します。
細胞がダメージを受けたとき、通常であれば細胞内に隠れている細胞内成分が放出され、炎症細胞や免疫細胞を活性化します。このような炎症を引き起こす細胞内成分をダメージ関連分子パターン(damage-associated molecular patterns;DAMPs)と総称しています。 DAMPsは細胞傷害に伴って細胞から放出され、周囲の組織や細胞に危険を知らせるアラームのような役割を担う因子のことです。
DAMPsが細胞外や細胞膜上に露出するような細胞死が起こると、炎症反応が引き起こされ、ダメージを受けた組織の修復が起こります。DAMPsもトル様受容体を介して自然免疫を始動させます。
トル様受容体が認識する成分として、細菌表面のリポ多糖(LPS)、リポタンパク質、鞭毛のフラジェリン、ウイルスの一本鎖RNAと二本鎖RNA、細菌やウイルスのDNAに含まれる非メチル化CpGアイランドなどがあります。ある特定の分子を認識するのではなく、一群の分子を認識するパターン認識受容体です。
これらの受容体にリガンドが結合すると、そのシグナルによって自然免疫の応答が発動されます。

細菌やウイルス由来のリポ多糖、脂質、タンパク質を認識する TLR1,2,4,5,6はいずれも 細胞表面に存在し、細胞表面で微生物の表層成分を認識しシグナルを伝達する.一方,核酸を認識する TLR3,7,8,9はいずれもエンドソーム(エンドサイトーシスによって細胞内へと取り込まれた様々な物質の選別・分解・再利用などを制御する細胞内小器官)などの細胞内オルガネラ膜に局在し、エンドソームでリガンドを認識しシグナルを伝達する。(参考:Immunotherapy. 2009;1(6):949-964.のFig1)

【抗原提示とT細胞の活性化】

病原微生物の侵入など何らかの原因で炎症が起こると、血管から顆粒球や単球などが遊走して来ます。このように炎症反応によって集まってきたり、あるいは組織に常在していた樹状細胞マクロファージは、侵入した細菌やウイルス粒子、あるいは死滅した細胞の死骸や断片などを取り込み、リンパ液の流れに沿って所属リンパ節に移動します。
樹状細胞やマクロファージは取り込んだタンパク質を分解し、その結果産生されたペプチド(アミノ酸が数個から数十個つながったもの)をMHC(major histocompatibility complex:主要組織適合抗原複合体)分子の上に提示します。
活性化した樹状細胞はリンパ節で手当たりしだいにナイーブT細胞(まだ一度も活性化されたことのないT細胞)とくっつきあって、何かを確かめます。ナイーブT細胞はその表面にT細胞抗原認識受容体(TCR)を持っています。樹状細胞の表面に提示されたMHC+抗原ペプチドとピタッとくっつく受容体(TCR)をもったナイーブT細胞と出会うと、そのT細胞を活性化します。
抗原を提示して活性化している樹状細胞にはCD80/86という補助刺激因子が発現しており、T細胞のCD28と結合し、刺激を送ります。 さらに、活性化した樹状細胞はサイトカインを放出しており、ナイーブT細胞はそれを浴びることになります。
このように①TCRを介するシグナルと②CD28を介する補助刺激と③サイトカインによる刺激を同時に受けたTリンパ球は初めて活性化し、TCRの特異性を保ったままで分裂・増殖して自らのクローンを増やします。 CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)は、Th1またはTh2のパターンを示すサイトカイン産生細胞へと分化します。
 CD8陽性T細胞(キラーT細胞)は成熟し、細胞質内にパーフォリンやグランザイムなどを含んだ細胞傷害顆粒を持つエフェクター細胞になります。  
エフェクター細胞はリンパ節を離れ、胸管を経て循環血液中へと流れ込み、血流に従って全身を巡ります。炎症の起こっている組織から産生されるサイトカインやケモカインなどの作用でエフェクターT細胞は炎症部位に集まり、病原菌やがん細胞の攻撃に参加します。

がん細胞から放出されたがん抗原を未熟樹状細胞が取り込んで成熟して抗原を提示するとき、MCH(major histocompatibility complex:主要組織適合抗原複合体)分子にペプチド抗原を載せて細胞傷害性T細胞やヘルパーT細胞に提示する。このとき、MCH+ペプチド抗原にぴったり結合するTCR(T細胞受容体)を持つT細胞は、補助刺激因子(CD28とCD80/86など)や樹状細胞から放出されるサイトカインの働きで活性化され、がん抗原を認識するT細胞が増殖し、がん細胞を攻撃する。

【イミキモド(imiquimod)はTLR7のリガンド】

トル様受容体(TLR)シグナル系は自然免疫獲得免疫の両方を活性化します。TLRの活性化はI型インターフェロン炎症性サイトカインの遺伝子発現を促進します。 I型インターフェロンとはインターフェロンファミリーのうち、インターフェロンα(IFN-α)とインターフェロンβ(IFN-β)などを含めた総称で、ウイルス感染で誘導される抗ウイルス作用をもつサイトカインです。免疫系細胞から分泌されてマクロファージを活性化するインターフェロンγ(IFN-γ)はII型インターフェロンと言います。
I型インターフェロンは抗原提示、T細胞増殖、樹状細胞の成熟、ナチュラルキラー細胞の活性化を促進します。
トル様受容体(TLR)を介する樹状細胞の活性化は、貪食作用、成熟、流域リンパ節への移動、Th1サイトカインの分泌、リンパ球への抗原提示能を亢進します
TLRのアゴニストはがんの免疫療法において有望な治療薬となりうると考えられており、多くの物質が臨床使用に向けて開発中です。 腫瘍局所にTLRアゴニストを投与すると、自然免疫と獲得免疫を誘導し、さらに腫瘍の微小環境に様々な作用を及ぼして、腫瘍を効率的に排除することができます。
TLRアゴニストは樹状細胞を活性化し、T細胞応答を増強し、制御性T細胞の免疫抑制作用を減弱させるので、がんワクチン療法の効果を増強します。 抗がん剤治療や放射線治療や抗体療法や分子標的薬とTLRアゴニストとの併用療法に関する研究が進行中です。 すでに臨床で使用されているものもあります。BCGピシバニールはTLRを活性化します。さらにTLR7のリガンドのイミキモド(imiquimod)という塗り薬が、尖圭コンジロームや皮膚がんの治療に使用されています。
イミキモド(Imiquimod)は合成イミダゾキノリン(imidazoquinoline)で、樹状細胞やマクロファージなどに発現しているTLR7(Toll-like receptor 7)にリガンドとして直接結合し、シグナルを伝えることによって、I型インターフェロンを誘導し自然免疫を活性化します。 欧米では塗布薬(5% imiquimodクリーム)として販売され、基底細胞がんや尖圭コンジローマに対して使用され、さらに日光角化症、ボーエン病など表在性の皮膚悪性腫瘍でも有効性が認められています。
欧米で実施された基底細胞がん(BCC)を対象にした臨床試験では、表在型BCCに対し6週間毎日または5回/週の外用で、80%前後の腫瘍の病理学的消失率が認められています。 有害事象としては紅斑、びらん、潰瘍、局所刺激感などの局所反応が主体であり、おおむね安全に使用できます。
このような皮膚がんに対する効果は、イミキモドがTLR7のアゴニストで、自然免疫を活性化して、皮膚がんに対する特異免疫を誘導して、免疫機序で腫瘍を縮小・消滅させると考えられています。
TLRはパターン認識受容体で、病原体の侵入を感知して自然免疫を活性化し、ついで獲得免疫を作動させます。TLR7は樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞のエンドソームの膜に存在し、ウイルスの一本鎖RNAがリガンドになります。 TLR7の活性化はIFN-α、IL-12、TNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を増やし、樹状細胞の成熟と抗原提示能を促進します。
したがって、皮膚がん以外の転移性皮膚腫瘍に対しても効果が期待でき、さらには、皮膚投与でイミキモドが腫瘍近くのリンパ節に取り込ませることも可能なので、皮膚転移以外の全身のがん転移にも効果があります。
実際に乳がんの皮膚転移にイミキモドクリームが有効であった症例の報告があります。さらに、イミキモドクリームの皮膚投与は頭蓋内腫瘍を縮小させたり、肺組織の免疫を高めるなどの動物実験の結果が報告されています。

①トル様受容体7(TLR7)のリガンドであるイミキモドを皮膚に塗布すると皮下に吸収され、②皮下の未熟樹状細胞を成熟させる。③がん組織から放出されるがん抗原を成熟樹状細胞が取り込むと活性化され、T細胞に抗原提示を行う。④樹状細胞はMCH分子の上にがん抗原を乗せ、この抗原にぴったり合うT細胞受容体(TCR)を見つけると、補助刺激因子(CD28とCD80/86など)の結合やサイトカインの放出などによって、がん抗原を認識するT細胞が活性化される。⑤その結果、がん抗原を認識するTCRをもつT細胞がクローナルに増殖する。⑥抗原特異的に活性化されたT細胞はがん細胞を攻撃する。