メラトニンは子供の頃は多量に分泌されますが、思春期をすぎると急激に分泌量が減り、年齢とともにさらに減っていきます。子供は夜になると自然に眠り、年寄りは睡眠時間が短くなって不眠症や時差ボケになりやすいのはメラトニンの量が少ないからだという考えもあります。メラトニンの体内量が増えれば若返られるのではという議論が起き、マウスで実験したところ、30%くらいの寿命が伸びるというデータが出ました。他にもぼけ防止やがん予防効果などの作用が認められアメリカでは抗老化ホルモンとして一気にブームになりました。 免疫力や抗酸化力を高めると同時に、様々な機序での抗がん活性が報告されており、進行がんにおいて延命効果を示す臨床試験の結果も多く発表されています。1日10〜20mg程度の摂取(就寝時)は、がんの発生や再発を予防する効果が期待できます。がん治療には1日10mgから40mgが使用され、多くのがんで有効性が報告されています。 抗がん剤治療や放射線治療の副作用を軽減し、生存率を高める効果が多くの臨床試験で確認されています。1996年から2007年の間に行われた33の臨床試験の結果(総患者数:2446人)をまとめたメタ解析では、メラトニンは様々ながんに対する抗がん剤治療において、神経障害、骨髄抑制、体力低下、悪液質、下痢などの副作用を軽減することが示されています。 メラトニンは日本ではサプリメントとして許可されていませんが、インターネットで米国から個人輸入で入手できます。極めて安価なので、費用対効果から評価して、もっとも有用な抗がんサプリメントと言えます。 ただし、免疫細胞を活性化するため、免疫細胞の腫瘍(悪性リンパ腫やリンパ性白血病)の場合や自己免疫疾患(慢性関節リュウマチなど)がある場合には使用できません。 【 生体のリズム(概日リズム)を調節するメラトニン】 生体の生理機能は昼夜常に同じ状態を保っているわけではなく、ほぼ1日を周期として変動する概日リズム(サーカディアンリズム)が存在します。私達の体の中(脳)には体内時計があり、昼夜サイクルの時間を刻みながら、体の多くの機能に活動と休息のリズムを与えています。これをサーカディアンリズム(circadian rhythm)と言います。ラテン語で「サーカ」は「約」、「ディアン」は「1日」という意味で、日本語では「概日リズム」と言います。 夜暗くなると、睡眠を促す「メラトニン」というホルモンが脳の松果体から分泌され始め、メラトニンが増えると睡魔が襲ってくるのです。ところが夜の時間帯に強い光を浴びると、メラトニンの産生が減って寝つきが悪くなります。昼夜サイクルを無視した生活をすると体内時計の調子が狂い、体調を損ねる原因となります。 メラトニンは脳のほぼ真ん中にある『松果体』と呼ばれる、松かさに似たトウモロコシ1粒くらいの大きさの器官から放出されるホルモンです(図)。 メラトニンの原料は必須アミノ酸のトリプトファンです。トリプトファンに2種類の酵素が働いてセロトニンに変わります(トリプトファン → 5-ヒドロキシトリプトファン → セロトニン)。セロトニンは神経細胞と神経細胞のつなぎ目(シナプス)で情報伝達の役目をする神経伝達物質の一つです。このセロトニンに2種類の酵素が働いてメラトニンが合成されます(セロトニン → N-アセチルセロトニン → メラトニン)。つまり、メラトニンは体で作られている天然の成分です。 セロトニン → メラトニンという段階は、体内時計からの指令が来ないとスタートしない仕組みになっています。すなわち、目から入った光の情報は視神経と通って脳にある体内時計(視交叉上核)に伝えられ、さらに神経によって松果体に連絡が入ってメラトニンの合成が制御されます。 メラトニンは松果体から分泌された後、血液に乗って全身に運ばれ、最終的には肝臓で代謝されます。唾液や脳脊髄液、卵巣の卵包液、胆汁中にも移行します。血液脳関門や胎盤も通過します。メラトニンは松果体の他にも、網膜や消化管からも産生されることが明らかになっています。メラトニンはヒトの体内時計を調節するホルモンとして、快適な睡眠をもたらし、時差ぼけを解消するサプリメントとして評判になりましたが、最近の研究で若返り作用や抗がん作用なども報告されています。 メラトニンの分泌異常が不眠や時差ぼけや抑うつ、ストレス、生殖能力、免疫異常やある種のがんの発生と関連している可能性が報告されています。がんとの関連においては、特に、乳がんとの関連が研究されています。例えば、夜間の電灯が、メラトニンの分泌の低下を引き起こし、乳がんの発症に関与している可能性を指摘する「乳がん発生のメラトニン仮説」も提唱されています。盲目の人には乳がんが少ないという報告や、夜間勤務の人には乳がんが多いという報告があり、これらはメラトニンが多く分泌される状況にあると乳がんの発生が抑えられ、夜間勤務のようにメラトニンの分泌が抑えられると乳がんが発生しやすい可能性を示唆しています。実際に、メラトニンの主要代謝産物の6-sulfatoxymelatoninの尿中排泄量が多い人(体内でのメラトニンの産生量が多い)ほど乳がんの発生率が低いことが報告されています。(乳がん発生とメラトニンとの関係についてはこちらへ) メラトニンのレベルががんの発生や進展に関与するという報告は乳がん以外にも、前立腺がん、大腸がん、脳腫瘍、子宮体がん、肝臓がんなどで報告されています。 メラトニンには抗酸化作用や免疫増強作用やその他多くの抗腫瘍効果があるというのが、がんのメラトニン仮説の根拠になっています。メラトニンの抗腫瘍効果は、実際に多くの臨床試験で確かめられています。 【メラトニンは抗酸化力を高める】 【メラトニンはがん細胞を排除する免疫力を高める】 以上のように、多くの研究から、メラトニンはがん細胞を排除する免疫力を高め、抗がん剤やストレスによる免疫力低下を軽減する効果があることが確かめられています。 【メラトニンはがん細胞の増殖を抑える】
【メラトニンは抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減し、生存率を高める】
メラトニンは抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減し、さらに抗がん剤や放射線による抗腫瘍効果を増強して生存率を高める効果が多くの臨床試験で報告されています。以下のような結果が報告されています。1)手術不能の肝細胞がんの肝動脈化学塞栓療法(TACE)による治療前後にメラトニン(20mg/日)を服用すると切除手術の実施率と生存率を高める効果が報告されています。100例の手術不能の進行した肝細胞がんを、肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization ,TACE)のみを施行した50例(TACE単独群)と、TACEの施行前後にメラトニンを投与した50例(TACE+メラトニン群)にランダム(無作為)に分けて2年以上追跡し、生存率と切除手術実施率などを比較しています。 TACEはリピオドールと抗がん剤(マイトマイシン C、アドリアマイシン、5-FU)を肝動脈内に注入する塞栓術を6週ごとに3回施行し、メラトニン(20mg/日、午後8時に内服)はTACE前7日間とTACE後21日間投与しました。 TACE治療後に切除手術が可能であったのは、TACE群が4%、TACE+メラトニン群は14%で、メラトニン投与によって統計的に有意(P<0.05)に切除率が向上しました。 6ヶ月、1年、2年後の生存率は、TACE単独群が82%、54%、26%であったのに対して、TACE+メラトニン群では100%、68%、40%であり、いずれもメラトニン投与により統計的に有意(P<0.05)な生存率の向上を認めました。 TACE施行後の肝障害(ALT,ASTなどで評価)はメラトニン投与により軽減し、メラトニンの抗酸化作用による肝細胞のダメージ軽減効果が示唆されました。さらに、免疫増強の指標となる血中IL-2濃度は、TACE単独では増加しなかったが、メラトニン併用群ではIL-2の増加が認められました。 以上の結果より、メラトニンはTACEによる肝障害を軽減し、免疫力を増強し、生存率と切除手術施行率を高める効果が認められました。したがって、進行した肝細胞がんの肝動脈化学塞栓療法(TACE)においてメラトニンを1日20mg投与することは臨床的に有効と考えられます。(Hepatobilliary Pancreat Dis Int. 1:183-186, 2002)2)ホルモン療法(タモキシフェン)を受けている進行した乳がん患者において、1日20mgのメラトニンの服用に延命効果があることが報告されています。 ホルモン依存性の乳がんの治療のあと、再発予防の目的で抗エストロゲン剤のタモキシフェンなどが投与されますが、1日20mgのメラトニンはその再発予防効果を高める効果が期待できます。3)悪性脳腫瘍(神経膠芽腫)30例のランダム化比較試験で放射線照射単独群の1年生存率が6.3%に対して、放射線照射と1日20mgのメラトニンを併用した群の1年生存率は42.9%でした。(Oncology 53:43-46, 1996)4)転移を有する進行性非小細胞性肺がん患者100例を対象に、シスプラチンとエトポシドの抗がん剤単独群50例と抗がん剤+メラトニン治療群50例に分けたランダム化比較臨床試験では、神経毒性の副作用は抗がん剤単独群が41%に対してメラトニン併用群が18%、血小板減少は抗がん剤単独群が20%に対してメラトニン併用群は14%でしたた。10%以上の体重減少は抗がん剤単独群では41%に対してメラトニン併用群では6%、体力低下は抗がん剤単独群では35%に認められ、メラトニン併用群では8%でした。これらの差はいずれも統計的に有意でした 完全寛解と部分寛解を足した奏功率は、抗がん剤単独群が18%に対して、メラトニン併用群では35%。完全寛解率は抗がん剤単独群では0%でしたが、メラトニン併用群では4%に認められました。抗がん剤単独群では2年以上の生存率は0%でしたが、メラトニン併用群では5年以上の生存率が6%(49例中3例)でした。(J Pineal Res 35:12-15, 2003)肺がんや大腸がんなどに対する抗がん剤治療にメラトニン(10〜40mg)を併用すると、副作用が軽減し、生存率や生存期間が向上することが複数の臨床試験で示されています。 1996年から2007年の間に行われた33の臨床試験の結果(総患者数:2446人)をまとめたメタ解析の結果、メラトニンは様々ながんに対する抗がん剤治療において、神経障害、骨髄抑制、体力低下、悪液質、下痢などの副作用を軽減することが示されています。 また、手術前後に服用すると、創傷治癒を早める効果や、免疫力を高めて感染症を予防する効果も報告されています。 【緩和医療におけるメラトニンの効果】 【メラトニンの服用法】 メラトニンは日本ではサプリメントとして許可されていません。銀座東京クリニックでは医師の個人輸入した米国製のサプリメントを処方薬として処方しています。 10mg x 60カプセルが5000円(税込み)、20mg x 60カプセルが9000円です。 ご希望の方は、電話(03-5550-3552)かメール(info@f-gtc.or.jp)にてお問合せ下さい。 |