【L-カルニチンとアセチル-L-カルニチンの関係】アセチル-L-カルニチン(Acetyl-L-Carnitine)L-カルニチン(L-Carnitine)にアセチル基(CH3CO-)が結合した体内成分です。L-カルニチンは、生体の脂質代謝に関与するビタミン様物質で、アミノ酸から体内で生合成されます。L-カルニチンは脂肪酸と結合し、脂肪酸をミトコンドリアの内部に運搬する役割を担っています。
体内のL-カルニチンのうち一部はアセチル-L-カルニチンの状態で存在します。アセチル-L-カルニチンは、血液脳関門を通過して脳内に到達し、アセチルコリンの量を増やします。つまり、アセチル受容体であるコエンザイムA(CoA)にアセ チル基を転移させてアセチルCoAを生成させ、さらにそれがコリンに受け渡され、最終的にアセチルコリンが生成します。
アセチルコリンは副交感神経や運動神経の末端から放出される神経伝達物質で、アセチルコリンの減少はアルツハイマー病との関連が指摘されています。実際に、アセチル-L-カルニチンはアルツハイマー病初期症状の改善に効果があることが報告されています。
L-カルニチンおよびアセチル-L-カルニチンががん治療において様々な有用な効果を発揮することが報告されています。L-カルニチンは脂肪燃焼を促進してエネルギー産生を増やすので抗がん剤治療に伴う倦怠感の改善に効果があります。アセチル-L-カルニチンは抗がん剤による末梢神経のダメージを軽減し、修復を促進する効果が報告されていますアセチル-L-カルニチンが抗がん剤の効き目を高める効果も報告されています。
L-カルニチンは日本でもサプリメントとして認可されていますが、アセチル-L-カルニチンはサプリメントとして認可されていません。しかし、がん治療に利用する場合は、L-カルニチンよりもアセチル-L-カルニチンを利用する方がより高い効果が得られます。

L-カルニチンとは】

脂質を燃焼してエネルギーを産生する際には、脂肪酸を燃焼の場であるミトコンドリアに運ばなければなりません。脂肪酸をミトコンドリアに運搬する役目を担うのがL-カルニチンです。(右図)
L-カルニチンが不足するとミトコンドリアでの脂肪酸の燃焼が障害されて、細胞におけるエネルギー産生が障害されてしまいます。脂肪酸はL-カルニチンが結合しないとミトコンドリアの中に入ることができないからです。
L-カルニチンはヒトの体内で合成されます。カルニチンの合成には2つの必須アミノ酸(リジン、メチオニン)、3つのビタミン(ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6)、還元型鉄イオンが必要で、これらの栄養素の一つでも不足すればカルニチンは不足することになります。(右図)
L-カルニチンの合成は肝臓、腎臓、脳でのみ起こります。心臓と骨格筋のように、脂肪酸の酸化によって主なエネルギーを得ている組織は、カルニチンを合成できないため、血液中のカルニチンを取り込んで利用しています。
食事性カルニチンの主な供給源は肉類と乳製品であり、穀類、果物、野菜にはほとんど含まれていません。体内で合成されますが、がんの治療で体力が消耗したり、栄要素が不足するとL-カルニチンの欠乏がおこり、細胞内でのエネルギー産生が低下します。抗がん剤治療中には、腸粘膜の障害で食事性カルニチンの吸収が低下し、肝臓や腎臓機能のダメージで体内での合成が低下し、尿中の排泄も増えることが指摘されています。
がんの代替医療では菜食主義を徹底する治療法もありますが、肉や乳製品を完全に排除する食事はカルニチンの不足を引き起こしやすくします。
L-カルニチンは体脂肪の燃焼を促進することで、ダイエットのサプリメントとして人気がありますが、細胞のエネルギー産生を高める効果があるので、様々な病気の治療にも応用されています。がん治療においても、抗がん剤治療による倦怠感や抑うつ気分を軽減する効果が報告されています。

抗がん剤治療中をはじめ、がん患者が訴える倦怠感や体力低下に、体内でのL-カルニチンの不足の関与が指摘されています。カルニチンの不足は脳でのエネルギーの枯渇を引き起こし、抑うつ気分や思考力の低下の原因にもなります
L-カルニチンが抗がん剤治療中の倦怠感や抑うつ気分を改善するという臨床報告があります。例えば、イタリアのUrbino病院の研究では、抗がん剤治療を受けた後、倦怠感を訴えた30人を対象に、L-カルニチンを1日4gを 7日間投与したところ、26人(87%)の患者で倦怠感が軽減しました。
抗がん剤のアドリアマイシンの心臓へのダメージをL-カルニチンが軽減したという報告もあります。
L-カルニチンは極めて安全性が高く、ヒトにおける臨床研究においても有意な副作用はまったく報告されていません。ただし、D-カルニチンは、天然のL-カルニチンの作用を阻害し、心筋および骨格筋におけるL-カルニチン欠乏症を生じさせますので、天然型のL-カルニチンを利用することが大切です。
また、L-カルニチンは、いかなる薬物や栄養素とも相互作用が認められていません。カルニチンと補酵素Q10とを組み合わせると、相乗的に働くことがわかっています

【アセチル-L-カルニチンとは】
アセチル-L-カルニチン(Acetyl-L-Carnitine)はL-カルニチン(L-Carnitine)にアセチル基(CH3CO-)が結合した体内成分です。
体内のL-カルニチンのうち約1割はアセチル-L-カルニチンの状態で存在しています。アセチル-L-カルニチンは、血液脳関門を通過して脳内に到達しアセチルコリン量を増やします。つまり、アセチル受容体であるコエンザイムA(CoA)にアセ チル基を転移させてアセチルCoAを生成させ、さらにそれがコリンに受け渡され、最終的にアセチルコリンが生成します。
アセチルコリンは副交感神経や運動神経の末端から放出される神経伝達物質で、アセチルコリンの減少はアルツハイマー病との関連が指摘されています。
実際に、アセチル-L-カルニチンはアルツハイマー病初期症状の改善や進行を遅らせる効果が報告されています。高齢者の気分変調や抑うつ症状を軽減する効果や、認知能や記憶を改善する効果も報告されています。
アセチル-L-カルニチンは細胞内でL-カルニチンに変換するので、L-カルニチンと同じ効果(脂質の燃焼促進)があります。さらに、アセチル-L-カルニチンは神経細胞のダメージの軽減や、ダメージを受けた神経細胞の修復・再生を促進する効果が報告されています。
アセチル-L-カルニチンが、糖尿病性神経症や薬物による神経障害に対して症状の改善効果を示すことが多くの研究で示されています。
例えば、糖尿病性神経障害患者333名を対象とした無作為化二重盲検比較試験において、最初の10日間は1000mg/日を筋注し、その後1年間2,000mg/日を経口摂取させたところ、神経生理学的指標(神経伝導速度および感覚と運動の振幅)の改善と疼痛の軽減が見られたという報告があります。また、 糖尿病性神経障害患者1,346名を対象とした多施設無作為化二重盲検比較試験において、アセチル-L-カルニチンを500または1,000mを1日3回、52週間摂取させたところ、500mgでは効果が見られませんでしたが、1,000mgで疼痛の緩和が認められたという報告があります。
さらに、抗がん剤の副作用で発症する神経障害に対しても、予防効果と症状の改善効果が報告されています
神経障害の改善効果に関して、1) カルニチンには抗酸化作用があり、酸化障害を軽減する、2) 細胞内のエネルギー産生を高め、修復を促進する、3) 神経成長因子の効果を高め、神経障害の修復と再生を促進する、といった作用機序が指摘されています。
1日2000mg程度のアセチル-L-カルニチンの摂取は、抗がん剤による神経障害を軽減し、症状を改善し、回復を促進する効果が期待できると言えます。抗がん剤の効き目を高める効果も報告されています
副作用としては、1日4g以上の摂取で吐き気や下痢が起こる可能性があります。
甲状腺ホルモンの作用を軽減する効果が指摘されています。

【抗がん剤による神経障害に対するアセチル-L-カルニチンの有効性】

Acetyl-l-carnitine prevents and reduces paclitaxel-induced painful peripheral neuropathy(アセチル-L-カルニチンはパクリタキセルによる痛みを伴う末梢神経障害を予防し軽減する)Neurosci Lett 397:219-223, 2006
(論文要旨)
末梢神経障害はパクリタキセル(商品名:タキソール)で多く見られる副作用で、知覚(感覚)の低下や麻痺、チクチクする痛み、刺激に対する知覚過敏、焼けるような痛みなどの症状を呈する。このような症状は両側性で対称性に起こり、始めは手足の指から感じ、次第に広がっていく。末梢神経障害は、抗がん剤治療が終了したあとも長く続くことが多く、数ヶ月や数年間ほとんど症状が改善しない場合もある。このような抗がん剤による末梢神経障害に対して有効性が証明された治療法はまだない。
アセチル-L-カルニチンは中枢神経系や末梢神経系に広く存在し細胞内における脂肪酸の代謝に重要な役割を果たしている。神経細胞のダメージの修復や再生を促進する効果が知られており、さらに、様々な原因で引き起こされる知覚過敏や神経性疼痛を改善する効果が報告されている。アセチル-L-カルニチンは糖尿病性神経障害の患者における神経性疼痛の緩和と神経伝導速度の改善に有効であることがプラセボ対照二重盲検比較試験で示されている。その他、様々な薬剤による神経障害に対するアセチル-L-カルニチンの改善効果が報告されている。
本研究では、パクリタキセル投与によって発生する疼痛を伴う末梢神経障害に対して、アセチル-L-カルニチンをパクリタキセル投与と同時に使用すると末梢神経障害の発生を予防し、末梢神経障害が完成した状態で使用しても、その症状を軽減することを示した。
ラットの腹腔内に2mg/kgのパクリタキセルを隔日で4回投与すると、機械的刺激に対して著明な痛覚過敏が現れる。パクリタキセル投与開始から投与後14日間アセチル-L-カルニチン(50mg/kgと100mg/kg)を経口で投与すると、パクリタキセルで誘導された痛覚過敏の発生を抑制した。この効果はアセチル-L-カルニチン投与終了の3週間以上持続した。
別の実験では、パクリタキセルで痛覚過敏を誘導したあと、アセチル-L-カルニチン(100mg/kg,10日間)を投与すると、痛みの軽減が認められた。この鎮痛効果はアセチル-L-カルニチンの投与を中止すると消失した。
以上の結果から、アセチル-L-カルニチンは抗がん剤によって引き起こされる末梢神経障害による疼痛の予防と治療に効果があることが示された

【アセチル-L-カルニチンは抗がん剤の効果を高める】

Metabolic approach to the enhancement of antitumor effect of chemotherapy: a key role of acetyl-L-carnitine.(抗がん剤治療の抗腫瘍効果を増強する代謝的アプローチ:アセチル-L-カルニチンの重要な役割)Clin Cancer Res. 16(15):3944-53, 2010
(論文要旨)
【目的】アセチル-L-カルニチンは、物質代謝やシグンル伝達において重要な働きをするアセチル基を供給するアセチルCoAの細胞内レベルに影響することによって、細胞の物質代謝やストレス応答において重要な役割を果たしている。
がん抑制遺伝子のp53蛋白質のアセチル化(p53蛋白質にアセチル基が付くこと)が、p53蛋白質の活性や安定性に影響し、その結果、抗がん剤の白金製剤(シスプラチンなど)に対する感受性にも影響することが報告されている。この研究では、白金製剤の抗腫瘍効果に対するアセチル-L-カルニチンの影響について検討した。
【実験方法】多数のヒトがん細胞株(正常なp53蛋白質を持つがん細胞株と、変異したp53をもつがん細胞株)を用いて、増殖抑制効果について検討した。動物実験では、肺転移を生じるH460/M細胞をマウスの皮下に移植した実験モデルで、転移抑制効果について検討した。
【結果】
正常なp53蛋白を有するがん細胞に対しては、アセチル-L-カルニチンはがん細胞のシスプラチンに対する感受性を高めた。正常なp53蛋白を有するがん細胞をマウスに移植した動物実験でも、アセチル-L-カルニチンはシスプラチンの抗腫瘍効果を高めた。しかし、変異型p53蛋白を有するがん細胞に対しては、シスプラチンの抗がん作用を高めなかった。
アセチル-L-カルニチンはがん細胞の転移を著明に抑制した。この転移抑制効果はヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase)阻害剤のST3595との併用によって増強した。動物実験では、アセチル-L-カルニチンとシスプラチンの併用は、がん抑制遺伝子のp53を活性化し、p53で制御されている遺伝子の発現によって、抗腫瘍効果を高めることが示された。
【結論】正常のp53遺伝子をもつがん細胞に対して、アセチル-L-カルニチンは白金製剤の抗腫瘍効果を高める。アセチル-L-カルニチンは単独でも転移を抑制する効果を示すが、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤との併用で、転移抑制効果はさらに増強した。つまり、アセチル-L-カルニチンはアセチル基の供給源となってp53蛋白やヒストンのアセチル化を介して抗腫瘍効果を発揮することが示された。

以上のような研究結果から、タキソールやシスプラチンなどの抗がん剤治療にアセチル-L-カルニチンを併用すると、副作用の軽減と、抗腫瘍効果の増強に役立ちます

【アセチル-L-カルニチンのサプリメント】
米国, Pure Encapsulations Inc.社製
5
00mg/60カプセル入り
価格:6300円(税込み)
ご希望の方あるいはご質問のある方はメール(info@f-gtc.or.jp)か電話(03-5550-3552)でお問い合わせください。
 
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