ウコンに含まれるクルクミンには、抗がん作用を含め様々な薬効が報告されています。しかし、クルクミンは水に溶けにくく、経口摂取してもほとんどが消化管粘膜から吸収されずに体外に排出されます。したがって、クルクミンの薬効を利用するためには、体内への吸収率(消化管吸収率)を高めることが最重要課題になっています。
セラクルミン(Theracurmin)は、細粒化+表面処理技術によりクルクミンの消化管粘膜からの吸収率を大幅に高めた高吸収型クルクミンです。
クルクミン(Curcumin)はウコンに含まれる成分の一つです。鮮やかな黄色を持つことから天然の食用色素として利用されています。最近はその健康作用が注目され、ドリンク剤や健康食品としても利用されています。
ウコン(Curcuma longa)はショウガ科の植物で、インドや東南アジアなどの熱帯地方、国内では沖縄・九州南部・屋久島に自生し、また栽培もされています。その根の部分は生姜に似ており、その乾燥粉末は「ターメリック」という香辛料であり、カレー粉の黄色い色素の元でもあるので馴染み深い食材です。黄色色素を利用してたくわんの着色剤やウコン染めの名で染料としても使われています。脂質の酸化を防ぐ作用があるため、食品の酸化防止剤としても利用されています。ウコンの粉末(ターメリック)には3〜5%程度のクルクミンが含まれています。(下図)
ウコンは古代インド医学(アーユルヴェーダ)から伝わった薬草で、胃腸病や炎症性疾患の治療に古くから用いられています。多くの国で民間薬としても使われています。漢方医学では、利胆(胆汁の分泌促進)、芳香性健胃薬の他に止血や鎮痛を目的に漢方処方に配合されます。
インドのアーユルヴェーダ医学では抗炎症作用が利用され様々な疾患の治療に用いられています。薬理作用としては、肝臓の解毒機能亢進作用、利胆作用、芳香健胃作用があります。抗動脈硬化作用、アルコール性肝障害の改善作用なども報告されています。
お酒を飲んだらウコンとよく言われますが、普段からウコンを摂取することで肝機能を丈夫にできます。ウコンに含まれるクルクミンは胆汁の分泌を促進する作用があり、肝臓における毒物の排泄を促進するからです。最近では、胃腸病や高血圧などの幅広い効用も認められるようになりました。民間療法や健康食品としてもポピュラーな食品です。
日頃からカレーを多く食べている人ほど、アルツハイマー病のような認知症の発症率や程度が低いという疫学研究の結果も報告されています。抗炎症作用や抗酸化作用が、脳の神経障害を防ぐ効果があるためと考えられています。
ウコンは血液循環を良くし、抗酸化作用と抗炎症作用が強く、抗がん作用もあるので、抗がん剤治療後の回復促進と再発予防にも効果が期待できるので、がんの漢方治療にもよく使用されています。
培養がん細胞を使った実験では、クルクミンおよびその類縁物質には、抗炎症、抗酸化、転写因子NF-κB の活性化阻害、誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性阻害、がん細胞のアポトーシス誘導などの作用が報告されています。
【抗がん剤感受性を高めるクルクミン】
動物を使った発がん実験や移植腫瘍を用いた実験で、クルクミンの発がん予防効果や腫瘍縮小効果を確認した論文が多数報告されています。クルクミンが多くの抗がん剤の効き目を高める作用が報告されています。以下のような報告があります。
1)抗酸化作用とNF-κB活性化阻害による抗がん剤感受性の増強。
クルクミンには転写因子のNF-κBの活性化を阻害する効果があります。転写因子のNF-κB (Nuclear Factor-kappa B)は、通常は細胞内でIκB (Inhibitor of kappa B)という阻害蛋白と結合して不活性な状態で存在しています。がん細胞に酸化ストレスや増殖シグナルが来ると、IκB蛋白が分解してNF-κBはフリーになって細胞の核に移行します。NF-κBは増殖や細胞死に関連する遺伝子の発現に作用して、細胞の増殖を促進し、アポトーシス(細胞死)を起こしにくくします。アポトーシスとは、細胞がある情報を受けて、自ら能動的に死んでいく「プログラムされた細胞死」のことをいいます。多くのがん細胞は、転写因子NF-κBが活性化されるとアポトーシスが起こりにくくなって増殖速度が早くなります。がん細胞で活性化されたNF-κBを阻害してやるとがん細胞が抗がん剤で死にやすくなり、抗がん剤が効きやすくなります。
最近の研究で、クルクミンはIκBの分解を阻止してNF-κBの活性化を抑制することが報告されています。さらに、クルクミンは抗酸化作用があるので、がん細胞の酸化ストレスを軽減することによってNF-κBの活性化を抑制する効果もあります。すなわち、クルクミンは抗酸化作用による酸化ストレスの軽減と、IκBの分解阻止によるNF-κBの活性化阻害の両方の作用によって、がん細胞のNF-κBの活性化を阻害し、がん細胞のアポトーシスを引き起こしやすくして、抗がん剤感受性を高める効果が現れます。
2)上皮成長因子受容体(EGFR)の活性を阻害して、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤のイレッサやタルセバの効き目を高める効果が報告されています。
上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor; EGFR)は、細胞膜を貫通して存在する分子量170キロダルトンの糖蛋白質で、チロシンキナーゼ型受容体の一種です。細胞外(血液や体液中)にある成長因子(EGFやTGF-αなど)のシグナルを細胞内に伝える働きをします。ゲフィチニブ(Gefitini:商品名イレッサ)とエルロチニブ(erlotinib:商品名タルセバ)は上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤と呼ばれる分子標的治療薬です。クルクミンがEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の効き目を高める効果が報告されています。
肺がん細胞を使った実験では、クルクミンがEGFRの分解を促進する作用があることが報告されています。また、クルクミンはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の効果を高めて抗腫瘍効果を増強する一方、小腸粘膜に対するダメージは軽減して副作用を弱める効果も報告されています。
(Curcumin Induces EGFR Degradation in Lung Adenocarcinoma and Modulates p38 Activation in Intestine: The Versatile Adjuvant for Gefitinib Therapy. PLoS One. 2011; 6(8): e23756.)
3)クルクミンがFOLFOX治療に抵抗性の大腸がん細胞に対してEGFRとIGF1Rの働きを阻害してFOLFOXに対する感受性を高めることが培養細胞を使った実験で報告されています。
FOLFOXはフォリン酸(FOL)とフルオロウラシル(F)とオキサリプラチン(OX)の3剤を併用する多剤併用化学療法の一種で、大腸がんの治療に使われます。培養した大腸がん細胞にFOLFOXを投与すると、がん細胞のインスリン増殖因子-1受容体(IGF-1R)や上皮成長因子受容体(EGFR)やシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)やサイクリン-D1(細胞分裂を促進する遺伝子の一つ)などの細胞の増殖や生存に作用する蛋白質の発現量や活性が亢進し、FOLFOXに対して抵抗性になります。このような状況でクルクミンはIGF-1RやEGFRやCOX-2やサイクリン-D1の発現や活性の亢進を阻害して、FOLFOXに対する抵抗性を阻止することが報告されています。したがって、大腸がんのFOLFOX治療にクルクミンを併用すると抗腫瘍効果を高めることが示唆されます。
(Curcumin Targets FOLFOX-surviving Colon Cancer Cells via Inhibition of EGFRs and IGF-1R. Anticancer Research 30: 319-325, 2010)
4)肝臓がんや卵巣がんなどのがん細胞に対するシスプラチン、ドキソルビシン、タキソールの抗がん作用をクルクミンが増強したという報告もあります。
以上の他にも、様々な機序によって、抗がん剤や放射線治療の効き目を高め、かつ副作用を軽減する効果が報告されています。
また、クルクミンは免疫療法の効き目を高める効果も報告されています。ウコンに含まれるクルクミンには、活性化した樹状細胞のインドールアミン酸素添加酵素を抑制して抗腫瘍免疫を高めることが報告されています。(J. Biol. Chem. 284:3700-3708, 2009)
慢性炎症は発がんを促進すると同時に、免疫抑制系のT細胞を活性化し、樹状細胞やキラーT細胞の活性を弱めることが知られています。したがって、抗炎症作用のあるクルクミンは、炎症に由来して抗腫瘍免疫を抑制している要因(IDOの活性上昇やCOX-2の発現上昇など)を阻害することによって、免疫寛容状態を軽減して、がん細胞に対する免疫力を高める効果が指摘されているのです。
【クルクミンのバイオアベイラビリティ】
培養細胞や動物を使った基礎研究では、クルクミンががんや循環器疾患や神経変性疾患など様々な病気の予防や治療に効果が期待できることが示唆されています。しかし、これらの薬効が人間の病気に有効かどうかはまだ十分な証拠はありません。
クルクミンを服用しても、あまり効果が期待できないという意見があります。効果を期待するためには、かなり大量のクルクミンを服用する必要があると考えられています。その理由は、クルクミンは腸管からの吸収が極めて悪いためです。クルクミンは水に溶けにくいため、そのまま服用しても、消化管内で凝集し、ほとんど体内に吸収されないことが知られています。
薬学の分野では「生物学的利用能(バイオアベイラビリティ:bioavailability)」という用語があります。投与された薬物の何パーセントが血中に入って体に作用するかを表す指標です。薬を静脈内に投与すると、投与された薬物はほぼ完全に生体で利用されるので、バイオアベイラビリティは100%ということになります。一方、口から摂取(経口投与)した場合は、薬剤の消化管からの吸収の程度によってバイオアベイラビリティは影響を受けます。腸管からの吸収が悪いとバイオアベイラビリティの数値は極端に低くなります。一般的に、水に溶けにくい成分(高脂溶性の化合物)は消化管粘膜からの吸収性が悪いことが知られています。内服薬の場合、バイオアベイラビリティが十分に高い医薬品を創製できるかどうかが医薬品として成功するかどうかを決定する最も重要な要因の一つであるとされています。
通常のクルクミンは水に溶けにくく、そのまま服用しても消化管内で凝集し、体内にほとんど吸収されないことが明らかになっています。通常のクルクミンのバイオアベイラビリティは0.1%以下で、ほとんどが便と一緒に体外に排出され、体内では利用されていないことが明らかになっています。
したがって、基礎研究で明らかになっているクルクミンの薬効を人間で利用するためには、クルクミンのバイオアベイラビリティを高めること、すなわち消化管粘膜からの吸収を高めることが最も重要だと言えます。
薬剤のバイオアベイラビリティを高める製剤技術が開発され、サプリメントの分野でも体内吸収性を高めた製品の開発が行われています。クルクミンに関しても、消化管からの吸収を高めて生物学的利用能を改善した製品が開発されています。ナノ粒子化と表面加工技術を利用して消化管からの吸収性を高めたクルクミンの製品がセラクルミンです。
セラクルミン以外にもバイオアベイラビリティの高いクルクミン製剤が開発されています。がん治療におけるクルクミンの利用に関しては、バイオアベイラビリティの最も高い製品であることが必要条件と言えます。