プロスタグランジンE2(PGE2)という生理活性物質が増えすぎるとがん化しやすく進行も速まることがわかっています。PGE2は細胞の増殖や運動を活発にしたり、細胞死が起こりにくくする生理作用があるため、がん細胞の増殖や転移を促進します。PGE2はω6系不飽和脂肪酸のリノール酸から合成され、DHAなどのω3系不飽和脂肪酸はPGE2が体内で増えるのを抑える働きがあります。
このように、脂肪酸の代謝産物は細胞内のシグナル伝達系に作用してがん遺伝子やがん抑制遺伝子の働きに影響を及ぼします。そして一般的に、DHAやEPAのようなω3系脂肪酸はがんの発育を抑制し、アラキドン酸のようなω6系脂肪酸はがんの発育を促進するので、摂取するω3系脂肪酸とω6系脂肪酸の比が腫瘍の発育に影響することになるのです(図)。
図:がん増殖に対する魚と肉の影響。肉はアラキドン酸などω6不飽和脂肪酸が多く、プロス タグランジンE2の産生を増やして、がん細胞の増殖・転移や血管新生を促進し、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を抑制して再発促進に働く。魚に含まれるDHAやEPAなどのω3不飽和脂肪酸は逆の作用でがんの再発を抑制する。
DHAががんの予防や治療の効果を高めることは、多くの臨床的研究や実験的研究で明らかになっています。毎日魚を食べている人は、そうでない人に比べ大腸がんや乳がんや前立腺がんなど欧米型のがんになりにくいという研究結果もあります。ニュージーランドのオークランド大学のNorrish博士らは、317症例の前立腺がんの患者と480人の対照とを比較し、EPAやDHAの豊富な魚油を多く摂取すると前立腺がんのリスクを半分程度まで減らせることを報告しています。
DHAががん細胞の増殖速度を遅くしたり転移を抑制し、腫瘍血管新生を阻害し、がん細胞に細胞死(アポトーシス)を引き起こすことなどが多くのがん細胞で示されています。例えば、米国健康財団のローズ博士らは、ヒト乳がん細胞をヌードマウスに移植した動物実験で、DHAは腫瘍血管の新生を阻害して増殖を抑制し、がん細胞の肺への転移を防ぐことを報告しています。プロスタグランジンE2は血管新生を促進するので、プロスタグランジンE2産生を阻害するDHAには腫瘍血管の新生を阻害するようです。その他にも、抗がん剤の効果を増強し副作用を軽減する効果も報告されています。
肉類にはアラキドン酸が含まれていますので、肉を多く食べる人はがんになる危険が高いといわざるを得ません。(赤身の肉に多く含まれる鉄も発がんを促進する)
リノール酸そのものは体に必須な物質ですが、大豆や米など植物性食品のほとんどに含まれているので、どうしても過剰摂取になりがちです。したがって、肉の替わりに魚を食べる回数を増やせば、がん細胞の増殖や血管新生を促進するプロスタグランジンE2ができにくくなって、がん再発が予防できることになるのです。